AIが手を動かす時代、クリエイターの強みはどこに残る? クリエイティブディレクター松葉 忍が実践する「AIファースト」の仕事術

この記事でわかること
- テクノロジーへの理解を生かし、実現したい体験から必要な技術や要素を組み立てるディレクションの考え方
- VRインスタレーションやノルウェーでのライブ配信プロジェクトに見る、デジタルとリアルを融合した体験設計
- 生成AIの公式APIやMCPを活用し、動画生成ツールを自作して制作コストと作業を効率化する方法
- AIにタスクを実行させる「エージェント的思考」と、企画・思考の時間を確保する「AIファースト」の働き方
- AIを意識的な道具ではなく、自分の能力の一部として使いこなすために、クリエイターに求められる姿勢
生成AIが絵を描き、動画をつくり、コピーまで書く時代。
では、「クリエイターは何をする人なのか」という問いは、制作の現場にいる誰もが一度は立ち止まる場所です。
アマナのクリエイティブディレクター松葉 忍は、その問いに対する自分なりの答えを、すでに働き方そのものに落とし込んでいます。制作フローをAI前提で組み直し、マネジメント以外の時間の多くを「企画・思考」に充てる。手を動かす時間を削ってでも、考える時間を守るためです。ただし松葉の出発点は、技術ではありません。アパレルブランドのデザイナーとして手描きの絵を描くところから始まり、原宿のVRインスタレーション、ノルウェーの極限環境でのライブ配信と、一貫して「どんな体験を成立させるか」を描き続けてきた人物です。
扱う素材が布からプログラムへ、VRからAIへと移り変わってきたクリエイティブディレクターは、いまどこに自分の強みを見ているのか。アマナで長年CG・レタッチに携わってきた中島 輝が、そのキャリアと「AIファースト」の仕事術を聞きました。
デザイン画を描いていた人間が、なぜ技術を手にしたのか
中島 輝(以下、中島。敬称略):松葉さんのキャリアはかなり珍しい道筋ですよね。出発点はアパレルのデザイナーだったと伺っています。
松葉 忍(以下、松葉。敬称略):ティーン向けのレディースブランド、いわゆる109系をいくつか担当していました。当時は109の全盛期で、午前中は109に行ってショップの女の子たちとコミュニケーションを取りながらお客さんの動向を見て、午後から事務所でデザイン作業をする、という生活でしたね。
中島:三面図のようなものを描くんですか?
松葉:いえ、手描きで人が服を着ているイメージを描く感じです。
中島:売り場でお客様の反応を見て、スタッフから話を聞き、それをデザインに落とし込む。今のディレクションの仕事と、実は近いことをされていたんですね。そこから急にSE(システムエンジニア)になられたと。
松葉:景気がすごく落ち込んだ時期があって、衣服のような嗜好品から打撃を受けたんですね。服が売れなくなって、撤退や縮小するブランドが増えました。僕のいたデザイン事務所も社長が大阪の方で、大阪に戻ることになって。自分は東京出身なので退職することにしました。
「次は何をやろうか」と考えた時、当時はECサイトという言葉すらなく、ZOZOTOWNが立ち上がり始めた頃でした。「これからはインターネットだ」と思ってWebの世界に転向しようとしたのですが、入った会社がWebのシステム系の会社だったんです。「デザインもやるけれど、一旦システムを覚えてほしい」と言われて、エンジニアのコースに進むことになりました。
中島:完全にゼロベースですよね。どうやって習得されたのですか?
松葉:スクールのカリキュラム、通常1~2ヶ月かける内容を2週間ほどで叩き込まれて、すぐに大型案件の現場へ出向です。あとは1~2年現場でやりながら覚えていきました。その会社には7~8年いて、最初の5年はエンジニアとしてガッツリとプログラムを組んで、後半はWebディレクター、営業兼ディレクターとして働いていました。
中島:技術も営業も両方わかる方は当時周りにいらしたんですか?
松葉:いなかったですね。そこが自分の立ち位置、強みになりました。

アパレルデザイナーとしてキャリアをスタート後、SE、Webディレクターを経てクリエイティブディレクターに。グラフィック制作やWeb、動画制作はもちろんのこと、オフラインでのデジタル体験設計など、テクノロジーとクリエイティブを融合させた企画を得意とする。VRコンテンツの制作実績も多数。広告クリエイティブの企画から制作ディレクションまで幅広く担当。
「どの要素を組み合わせれば実現できるか」を即座に描く
中島:その後、アマナに入社された経緯を教えてください。
松葉:イベントでアマナのインタラクティブチームの方が登壇して事例を紹介しているのを聞いたのがきっかけです。それまではWebシステム構築の仕事が多かったので、「もっと広告やクリエイティブ寄りの仕事にシフトしたい」と考えて応募しました。
中島:希望されていた仕事はできましたか?
松葉:初めは大手精密機器メーカーとの合同プロジェクトでシステム構築中心だったので、思い描いていた広告制作とは少し違いました。ただ、そこから徐々に広告・制作のディレクションへと広がっていきましたね。
中島:松葉さんの中で、「テクニカル」と「クリエイティブ」はどういう関係性にありますか?
松葉:今の世の中のクリエイティブは、ほぼデジタルが前提ですよね。デジタル上で「どんな技術が使えて、どのような制約や拡張性があるのか」を理解した上で、クライアントから相談を受けた際に「どの要素を組み合わせれば実現できるか」という全体像、絵を即座に描ける。それが自分の強みだと思っています。
中島:技術そのものではなく、技術を知っているから描ける絵のほうが先にあるわけですね。
現実とVRの境界線を、暗闇で消す
中島:冒頭でも触れた原宿のデジタルインスタレーションですが、改めてどのような案件だったのでしょうか。
松葉:イトキンさんが展開している洋服ブランド「TARA JARMON(タラジャーモン)」のポップアップイベントです。FASHION’S NIGHT OUT(FNO)に合わせて原宿キャットストリートのイベントスペースを貸し切って行いました。当時はVRが出始めの頃で、「VRを使って空間を仕上げたい」というご相談でした。ただ、一般的なVRは「ゴーグルを被って中で映像を見て終わり」になりがちで、没入感が弱いと感じていたんです。なので、空間全体の体験設計を含めて提案しました。
▼関連記事:イトキン「TARA JARMON "ECLIPSE -月食-"」
中島:具体的な構成を教えてください。
松葉:シーズンのテーマが「エクリプス(月食)」だったので、まず真っ暗闇の部屋に入って、暗闇の中でVRゴーグルを装着してもらう。これで現実とVR内の境界線がなくなります。次にVRコンテンツが始まって、モデルや洋服、インテリアの世界観が展開され、最後は星空で終わる。そしてゴーグルを外すと、部屋の壁に開けた小さな穴から照射したLED光の反射で、現実の部屋全体が星空に変化している、という流れです。
中島:VRの余韻が、そのまま現実の空間に接続されるんですね。ゴーグルを「被せる場所」から設計しているのが面白いですね。
松葉:体験時間は約2分半ほどでしたが、現実とデジタルを融合させた体験として非常に好評でした。

独立で知った、チーム組成の「シビアさ」
中島:その後、一度独立されています。当時の実績についてはいかがですか?
松葉:自分の力で1回チャレンジしてみたいと思って独立しました。独立期には、大手電機メーカーの「ロボット登頂チャレンジプロジェクト」にテクニカルディレクターとして携わりました。ノルウェーの高さ1,000mのフィヨルドで、ロボットが1本のロープを登頂するプロジェクトです。現地は電波もない極限環境でしたが、360度カメラによるライブストリーミング配信の仕組み構築と実行を担当しました。
中島:相当プレッシャーのかかる現場だと思いますが、どう乗り越えられたのですか?
松葉:「仕事だから成功させるしかない」「やるか、超やるか」という気持ちですね。課題をクリアするために、ひたすら考えて実行するだけでした。
中島:逆に、独立して感じたシビアさはどんな点でしたか?
松葉:経験値はすごく上がりました。ただ難しかったのはチーム組成におけるコストの問題です。アマナのような会社組織なら、社内のクリエイターやプロデューサーと一緒に提案を進められます。でも1人のフリーランスだと、外部の人を巻き込んだ時点で発注前の準備・助走期間でも人件費が数十万円単位で発生してしまう。コンペで失注した場合のリスクが非常にシビアでした。
再ジョインの決め手は「AI」だった
中島:2025年に再度アマナに戻られた決め手は何だったのでしょうか?
松葉:一番の理由は「AI」です。2023年から個人でAIを触っていたのですが、2024年に入って情報量が爆発的に増えた。個人1人で追いきれるインプットや検証には限界がある、と感じたんです。
中島:一度離れたからこそ見えた、アマナという組織の魅力はどこにありますか?
松葉:一定の裁量権と自由を与えられながら、メジャーで規模の大きいプロジェクトに関われる点ですね。独立して様々な代理店やプロダクションと仕事をしてきましたが、こういう環境は他にありませんでした。社内の人は気づいていないかもしれませんが、クリエイターにとって非常に恵まれていると思います。
中島:社内でよく耳にしていたように、アマナは「自己実現の場」と語られてきましたよね。

フィルム時代からデジタルへの移行期を制作現場で経験し、アマナにてCG制作やレタッチに携わる。技術の転換期を現場で経験してきた知見を活かし、現在は社内のAX(AIトランスフォーメーション)推進担当として、実務への生成AI導入とその利用に関するガバナンス整備に取り組んでいる。
ツールは「待つ」のではなく、自分でつくる
中島:現在はかなり踏み込んだAI活用をされていますよね。どのようなツールを開発しているのですか?
松葉:BytePlusの動画生成ソリューション「Seedance 2.5」を活用するツールを自作しました。サードパーティ製のツールは費用が高いので、公式APIを経由する仕組みを構築したんです。これでクレジット費用が約1/3に抑えられますし、セキュリティ面でも安全に利用できます。
さらにMCP(Model Context Protocol)を連携させて、ClaudeやCodexといったLLMとの対話の中から、このツールを直接呼び出せるようにしています。通常の画面UIを触ることなくLLMとの会話の流れで動画生成を自動実行させている状態ですね。
中島:具体的にどのような効率化に繋がっていますか?
松葉:例えば「1つのオブジェクトを起点に10パターンの動画を作りたい」という場合、通常のUIだと10回のコピペと手動操作が必要です。でもLLMに10個のプロンプトを生成させて一括で投げれば、10個の動画生成を全自動で処理できます。
中島:人がUIを操作する前提そのものを外してしまうと、そこまで変わるんですね。検証の試行回数が桁で変わってきますね。

これからは「エージェント的思考」が不可欠
中島:日々の業務配分や、思考の切り替えについて教えてください。
松葉:マネジメントに週10~12時間ほど。残りはディレクションや制作、そして最も重視している「企画・思考」の時間に充てています。
仕事の進め方は3ヶ月前と今とで変わってしまうほどのスピード感の中にあります。これからは単にLLMとチャットするだけでなく、「AIに何を実行させるか」を考えてタスクを投げる「エージェント的思考」、「AIファースト」の行動が不可欠だと思っています。プライベートでも自宅に専用サーバーやゲーミングPCを2台置いて、最新技術の検証を続けています。
中島:手を動かす時間を削って考える時間を守っているわけですね。
AIを「ネイティブ」として使いこなせるか
中島:AIが手を動かす時代において、クリエイターに残る強みや役割は何だと思いますか?
松葉:AIを意識的なツールとしてではなく、自分の手足や能力のように「ネイティブ」として使いこなしていく必要があると思っています。意識せずにAIのポテンシャルを引き出せる状態を作らないと、置いていかれてしまうと感じています。
中島:道具として「使う」のではなく、身体の延長にしてしまう。つまり、AIを自分の分身にするということですね。
今後、テクノロジーとクリエイティブを融合させて挑戦したい領域はありますか?
松葉:デジタルの力を使った空間演出が好きなので、AIを取り入れた新しい拡張表現に興味があります。最近はフィジカルAI(ロボティクス)領域の勉強もしているのですが、リアル環境の学習データ、教師データの作成はデジタルと違って手動で行う必要があり、現時点ではそこがボトルネックです。このデータ作成がAIによって自動化される時代が来れば、フィジカルAIの世界も一気に進化すると感じています。
中島:アパレルのデザイン画から、プログラム、デジタルインスタレーション、そしてAIのエージェント設計まで。扱う素材は変わっても、「どんな体験を成立させるか」を先に描いてきた点は一貫しているんですね。本日はありがとうございました。
松葉:ありがとうございました。
取材・文・編集:中島 輝(アマナ)
撮影:計盛祐子(アマナ)
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ブランド戦略から表現設計、PoCまで一貫して支援します。
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