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生成AIで広告ビジュアルを狙い通りに仕上げるには? アマナのAIクリエイター チ・ベイリンが実践する制作術

生成AIで広告ビジュアルを狙い通りに仕上げるには? アマナのAIクリエイター チ・ベイリンが実践する制作術
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この記事でわかること

  1. Adobe FireflyとMidjourneyの特徴と、広告制作における使い分け
  2. 手描きスケッチと「構成参照」機能を活用し、狙い通りの構図を生成する方法
  3. プロンプトを階層的に設計し、色調や光の印象をコントロールするテクニック
  4. ムードボードとLLMを活用して、生成AIに伝わりやすい視覚語彙を抽出する方法
  5. 生成AIを実務に取り入れる際に重要な、完成イメージの具体化と言語化、ディレクションの考え方

広告制作やブランドコミュニケーションの現場で、画像・動画生成AIの活用は実験的な導入段階を終え、実務での本格的な運用段階に入りつつあります。しかし、多くのクリエイターや企業のインハウスデザイン組織は、共通の課題に直面しています。

「プロンプトを入れても毎回違う画像が出てしまい、狙い通りのビジュアルに仕上がらない」「偶然の出力(いわゆる"ガチャ")に頼ることになり、商業制作に欠かせないトーン&マナーの再現性や修正のコントロールが効かない」といった課題です。

アマナは、次世代の制作スタンダードを定義するため、クリエイター独自の審美眼とAI技術を融合させ、生成AIの実務活用を進めています。

本記事では、アマナのクリエイティブ特化型AIソリューション「A³(エー スリー)」で生成AIツールの先行研究を推進するクリエイター、チ・ベイリンの独自の実践ワークフローを紐解きます。聞き手は、同じくアマナで長年CG・レタッチに携わってきた中島 輝が務めます。

手描きスケッチを使った構図の指定や、プロンプトによる色調のコントロールなど、狙い通りのビジュアルを制作するための手法を紹介します。
 

先行研究で見えたツールの個性――「制御力のAdobe Firefly」と「表現力のMidjourney」

中島 輝(以下、中島。敬称略):ベイリンさんは日頃、アマナの「A³」で画像・動画生成AIの先行研究やR&Dに取り組まれていますね。Adobe FireflyやMidjourney、動画生成モデルのKlingなど、新しいツールが次々と登場するなかで、どのように検証し、使い分けているのでしょうか。

チ・ベイリン(以下、ベイリン。敬称略):新しいAIツールを検証するとき、私が特に重視している評価軸は2つあります。1つは「表現力(雰囲気づくりの豊かさ)」、もう1つは「コントロール性(指示をどれだけ忠実に反映するか)」です。
画像生成AIは、ツールごとにはっきりとした個性があります。たとえばAdobe Fireflyは、リアルな質感や破綻のない空間表現を得意としています。そのため、コスメや空間デザイン、建築といった実務領域と特に相性の良いツールです。

 

Adobe Fireflyで生成した空間ビジュアルの例。部屋の寸法や素材、視点まで具体的に書いたプロンプトによって、リアルな質感と破綻のない空間を再現。また、冒頭に「soft atmosphere」を置くことで、全体のトーンを統一している。
Adobe Fireflyで生成した空間ビジュアルの例。部屋の寸法や素材、視点まで具体的に書いたプロンプトによって、リアルな質感と破綻のない空間を再現。また、冒頭に「soft atmosphere」を置くことで、全体のトーンを統一している。

 

これに対して、Midjourneyは表現力が非常に高く、シンプルなプロンプトでも息をのむような世界観を描き出してくれます。ただし商業広告の実務では、その表現力の強さが裏目に出ることがあります。「指示していない要素を勝手に加えてしまう」「同じプロンプトでも毎回まったく違う結果になり、ばらつきが大きい」といった点です。そのため、Midjourneyは企画初期のアイデア出しや、世界観を探る段階に向いています。

中島:ブレストや企画段階でイメージを広げるには優れている一方、クライアントワークで細かい指定が入ると行き詰まりやすいわけですね。

ベイリン:そうなんです。だからこそ、実務のビジュアル制作で頼りにしているのがAdobe Fireflyです。Fireflyはプロンプトの指示を素直に反映します。同じプロンプトなら同じ構造を忠実に再現し、変えたい部分の記述だけを書き換えれば、その箇所だけを破綻なく変更できます。

 

同じプロンプトで、冒頭の1語(soft、warm、coolなど)だけを変えて生成した比較。Adobe Fireflyは、家具の配置や空間の構造を保ったまま、トーンだけを変えている。一方、Midjourneyは雰囲気豊かでアート寄りだが、生成するたびに構図や窓の外の景色まで変わっている。
同じプロンプトで、冒頭の1語(soft、warm、coolなど)だけを変えて生成した比較。Adobe Fireflyは、家具の配置や空間の構造を保ったまま、トーンだけを変えている。一方、Midjourneyは雰囲気豊かでアート寄りだが、生成するたびに構図や窓の外の景色まで変わっている。

 

「構成参照」が生む高い再現性――手描きスケッチを忠実に具現化する技術

中島:インハウスクリエイターからよく聞くのが、「頭の中にある構図を、AIにどう伝えればいいのか」という悩みです。カメラアングルや被写体の位置関係を、言葉だけで正確に伝えるのは難しいですよね。

ベイリン:そこで大きな役割を果たすのが、Adobe Fireflyの「構成参照(Structure Reference)」機能です。私は手描きのラフスケッチから始めて、複数のAIツールを順に使い、完成画像まで仕上げています。

中島:具体的にはどのような流れですか。

ベイリン:5つのステップに分けています。

 

【手書きラフスケッチをAIツールで連携させて完成画像にするワークフロー】

STEP 1:手描きラフを描く
まず、作りたい画面をシンプルなスケッチにします。テーブルのどこにグラスを置くか、奥のどの位置に花瓶や植物を配置するか、右側にどんな本を重ねるか。いわば構図の設計図です。各カットには日本語でメモを添えておきます。
 ↓
STEP 2:ラフをClaudeで英語プロンプトにする
ラフ画像をClaudeに渡し、構図やアングルを英語の詳しいプロンプトに書き起こします。
 ↓
STEP 3:Nano Bananaで清書線画を作る
そのプロンプトをNano Bananaに入れ、きれいな白黒の線画に清書します。
 ↓
STEP 4:Claudeで着彩用プロンプトを作る
清書した線画をもう一度Claudeに渡し、色、光、雰囲気まで書き込んだ着彩用のプロンプトにします。
 ↓
STEP 5:Adobe Fireflyで完成画像にする
清書線画を構成参照として読み込ませ、着彩用プロンプトと組み合わせて、色の付いた完成画像を作ります。

 

中島:検証のデモを見せていただきましたが、手描きの構図が最終的にリアルなビジュアルへと仕上がっており、その再現度に驚かされました。

ベイリン:手前のガラス瓶の透明感、その奥の鉢植えとの距離感、横に積んだ本のわずかなズレの角度まで、AIがスケッチを正確に読み取ってくれます。
構図の再現度は、かなり高い水準だと感じています。質感や細部を含めた全体でも、9割近くは意図どおりにコントロールできる印象です。残りの1割ほどは、AIが補ってくれる質感や表現の余白と言えるでしょう。細部まで画面をコントロールしたいディレクターにとって、偶然に左右されにくいこの制御力は大きな助けになります。
 

手描きのラフスケッチから完成画像までのワークフロー図。Claudeが「絵を言葉にする」通訳の役割を担っている。
手描きのラフスケッチから完成画像までのワークフロー図。Claudeが「絵を言葉にする」通訳の役割を担っている。

 

中島:まさにこの手法で、小説の世界観をもとにアートトレーラーを個人で制作されているんですね。作品全体はどのように進めているのでしょうか。

ベイリン:小説の一場面ずつをラフに起こして、絵コンテのように並べています。沈香に火を点すカットから始まり、洋館、庭の野ツツジ、登場人物の表情へとつないでいきます。各カットに短い説明文を付けておくと、それがそのままプロンプトの土台になります。物語の文脈や東洋的な空気感も、この説明文で伝えるようにしています。(本記事で取り上げたチ・ベイリンのアートトレーラーは、記事の最後に掲載したURLからご覧いただけます)

 

映像制作のために描いた手描きの絵コンテ。各カットに場面の内容や光、人物の表情などを短い文で添えている。線は簡素でも、構図と演出の意図ははっきりしている。このスケッチが、後の工程でAIに構図を伝える設計図になる。
映像制作のために描いた手描きの絵コンテ。各カットに場面の内容や光、人物の表情などを短い文で添えている。線は簡素でも、構図と演出の意図ははっきりしている。このスケッチが、後の工程でAIに構図を伝える設計図になる。

 

プロンプトは「数式」のように組む――色調と空間を分離する階層設計

中島:構図を固定できても、次は「ブランドのトーン&マナーに合わせて、色調や光の印象をどう統一するか」という課題が出てきます。ベイリンさんは、プロンプトの書き方に独自のロジックをお持ちだそうですね。

ベイリン:はい。プロンプトを感覚的な長文で書くのではなく、階層構造で組み立てることを徹底しています。先頭には全体のトーン&マナーと色調を置き、後半には具体的な空間・被写体・質感を記述します。

たとえばオフィス空間を制作する場合、後半の「オフィスのレイアウトや机、椅子」に関する記述は一言一句変えず、先頭の1行だけを書き換えます。

パターンA:「Cool blue atmosphere(青みを帯びたクールなトーン)」
パターンB:「Warm amber atmosphere(温かみのあるアンバーなトーン)」
パターンC:「Muted gray atmosphere(落ち着いたグレー調のトーン)」

こうすると、出力される3枚の画像は、什器の配置やオフィスの構造をそのまま保ちつつ、ライティングと空気感だけを変えられます。

中島:フォトグラファーがスタジオでセットを組んだあと、照明のカラーフィルターや光量だけを変えていくような感覚ですね。

ベイリン:まさにその通りです。このロジックは、コスメ商品の広告ビジュアル制作でも非常に有効です。スタジオで撮影した商品ボトルの写真にAIで生成した背景を合成する場合、使用シーンに合わせて時間帯や空間を作り分ける必要があります。

たとえば「朝に使うスキンケア製品」なら、プロンプトの先頭に「low saturation(浅い彩度)」や「soft light(柔らかな光)」を置き、そのあとに朝の洗面台やリビングのディテールを続けます。一方、「夜用のナイトセラム」なら、先頭に「amber(アンバーカラー)」を置き、落ち着いた夜の室内光を指示します。

植物を配置する場合も、単に「花」と書くだけでは足りません。「雨上がりで水滴がしっとりとついている」のか、「乾燥したマットな状態」なのかまで言語化して指示することで、商業クオリティに耐えうるシズル感とリアリティが生まれます。

 

Qi Beilin (チ・ベイリン) デザイナー/アーティスト。ニューヨークのSchool of Visual Arts(SVA)でイラストレーションを学び、東京藝術大学大学院グローバルアートプラクティス専攻を修了。ドローイングを軸にしたインスタレーション制作を経て、現在はアマナのAIクリエイティブチーム「A³」に所属。手描きと生成AIを横断しながら、ロゴやWebイラスト、コンペ提案、企業向けAIワークショップまで幅広く手がける。
Qi Beilin(チ・ベイリン)
デザイナー/アーティスト。ニューヨークのSchool of Visual Arts(SVA)でイラストレーションを学び、東京藝術大学大学院グローバルアートプラクティス専攻を修了。ドローイングを軸にしたインスタレーション制作を経て、現在はアマナのAIクリエイティブチーム「A³」に所属。手描きと生成AIを横断しながら、ロゴやWebイラスト、コンペ提案、企業向けAIワークショップまで幅広く手がける。

 

イメージを100%形にする5つのステップ――ムードボードからLLMによる「語彙の逆引き」へ

中島:手描きスケッチによる構成参照と、階層化したプロンプト設計。この2つを使いこなすために、ベイリンさんは普段どのようなプロセスで制作しているのでしょうか。

ベイリン:私のワークフローは、大きく5つのステップに分かれます。何より大切なのは、AIを動かす前に完成形を頭の中で明確にしておくことです。

 

【偶然に頼らない画像・動画生成AIの制作ワークフロー】

STEP 1:ゴールとターゲットを設計する(誰に向けて、どんな温度感で表現するかを決める)
 ↓
STEP 2:ムードボードを作る(Pinterestやストックフォトから、理想の光やトーンの画像を集める)
 ↓
STEP 3:LLMで視覚語彙を逆引きする(ムードボードを解析させ、AIが認識するキーワード群を抽出する)
 ↓
STEP 4:手描きスケッチで構図を決める(構成参照に使う骨格を作る)
 ↓
STEP 5:階層プロンプトで生成し、ディレクションする(Fireflyで生成し、質感を微調整する)

 

中島:特に興味深いのが、STEP 3の「LLMで視覚語彙を逆引きする」です。具体的にはどんな作業をしているのですか?

ベイリン:たとえば、「無機質で冷たい実験室ではなく、自然光や竹林越しの光が差し込む、温かみのある植物・生物の研究空間」を作りたいとします。まず、Pinterestや写真素材から、イメージに近い色調や光をもつ画像を集め、1枚のムードボードにまとめます。

次に、そのムードボードをマルチモーダルLLMに読み込ませ、「このビジュアルの世界観、光の質感、トーン&マナーを構成している要素を客観的に言語化してください」と依頼します。

中島:人が考えた主観的な言葉ではなく、AIがその画像をどのような言葉として認識・ラベリングしているかを抽出するわけですね。

ベイリン:そうです。LLMが返してきた大量のキーワードから、自分の表現したいニュアンスに合う単語を選び出し、専用のキーワードリスト(語彙辞書)を作ります。その語彙をプロンプトに組み込むことで、AIに伝わりやすい指示を組み立てられるのです。

 

中島 輝(なかしま てる) フィルム時代からデジタルへの移行期を制作現場で経験し、アマナにてCG制作やレタッチに携わる。技術の転換期を現場で経験してきた知見を活かし、現在は社内のAX(AIトランスフォーメーション)推進担当として、実務への生成AI導入とその利用に関するガバナンス整備に取り組んでいる。
中島 輝(なかしま てる)
フィルム時代からデジタルへの移行期を制作現場で経験し、アマナにてCG制作やレタッチに携わる。技術の転換期を現場で経験してきた知見を活かし、現在は社内のAX(AIトランスフォーメーション)推進担当として、実務への生成AI導入とその利用に関するガバナンス整備に取り組んでいる。

 

「かっこいい」ではAIは動かない――インハウス組織が直面する「PoCの壁」の越え方

中島:いま多くの企業がインハウスのデザイン組織やブランド推進室で生成AIのPoC(概念実証)を進めています。しかし、「思ったような画像が出ない」「社内提案のレベルに届かない」とつまずくケースも少なくありません。広告やブランディングの現場に携わる方へ、どのようなアドバイスを贈りますか?

ベイリン:最も大切なのは、生成AIを「なんでも叶えてくれる魔法の箱」だと思わないことです。AIは、あくまで道具にすぎません。

うまくいかないケースの多くは、AIに抽象的すぎる言葉を投げています。たとえば「かっこいい男性のビジュアルを出して」と入力しても、「かっこいい」の解釈は無数にあります。その結果、どこかで見たような平凡な画像しか返ってきません。

自分が表現したい「かっこいい」とは、20代の若者なのか、渋みのある40代の男性なのか。身長や骨格、目元の鋭さはどうか。光はどこから当たり、どんな表情をしているのか。こうした点を自分自身が具体的にイメージし、言葉とスケッチに落とし込んで指示しなければ、AIは真価を発揮できません。

中島:撮影現場で、アートディレクターや映像ディレクターがカメラマンやスタイリストに行う「演出」や「指示出し」と全く同じですね。

ベイリン:まさにディレクションそのものです。料理をおいしそうに見せたいなら、何がおいしそうに見せているのかを言語化します。立ちのぼる湯気なのか、表面のツヤなのか、器の土の質感なのか。自分の中に明確な完成図がなければ、AIに的確な指示は出せません。
 

チ・ベイリン(左)、中島輝(左)

 

デジタルに宿る「人間の手の痕跡」――AIだからこそ温度感を伝える表現へ

中島:最後に、A³としてクライアントと一緒に、どのような新しい表現やビジネス課題の解決に挑戦していきたいですか。

ベイリン:私自身、イラストレーション出身というバックボーンがあります。だからこそ、生成AIを使う際にも「人間の手の痕跡」がしっかり残るような表現に関わっていきたいと考えています。

たとえば人物を生成するとき、AIに任せるとツルツルとした滑らかすぎる肌になってしまいがちです。そうではなく、現実の人間らしい肌の質感やしわをディレクションによってきちんと残していく。リアルとデジタルを掛け合わせることで、「AIで作られたビジュアルなのに、確かな温度感が伝わってくる」と感じてもらえるような表現に挑戦していきたいです。

中島:デジタルでありながら、どこかクラフトのような手触りを感じられる表現ですね。AIを活用するからこそ、そうした温度感をどう宿すかが大切になってきますね。ベイリンさんならではの新しい表現をぜひ楽しみにしています。本日はありがとうございました!

ベイリン:ありがとうございました!

 

【Special Gallery】

 チ・ベイリンのAIパーソナルワーク『沉香屑 第一炉香』(じんこうくず だいいちろこう)

 

作品解説:張愛玲(チャン・アイリン)の短編小説の世界観に着想を得て、生成AIを活用して制作したアートトレーラー。緑を基調としたオリエンタルな雰囲気のなか、壁の質感や雨上がりの花に残る水滴まで、手描きスケッチとプロンプトを活用して細部まで緻密に表現しています。

 

取材・文・編集:中島 輝(アマナ)  
撮影:計盛祐子(アマナ)  
 


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ブランド戦略から表現設計、PoCまで一貫して支援します。

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