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森永製菓|TAICHIRO MORINAGA「音で味覚が変わる」没入型ブランド体験とは

森永製菓|TAICHIRO MORINAGA「音で味覚が変わる」没入型ブランド体験とは
Update

この記事でわかること

  1. 音のテンポや調性を変えると、なぜ味わいが変わるのか
  2. 「科学的なアプローチ」を感性に届けるクリエイティブ
  3. 「家族に体験させたい」という声が示す、次の可能性
東京・芝浦の森永製菓本社 エンゼルホールで体験型イベント「TAICHIRO MORINAGA -現代の文明開化- 音楽とスイーツがひらく をかしな夜」

音で、味覚が変わる。そう聞いてすぐに理解できる人は多くないのではないでしょうか。

2026年8月30日、東京・芝浦の森永製菓本社 エンゼルホールで体験型イベント「TAICHIRO MORINAGA -現代の文明開化- 音楽とスイーツがひらく をかしな夜」にて、参加者は音のテンポや音域、曲調の違いに合わせてスイーツや森永製菓の商品をひと口ずつ味わい、甘みの感じ方や香りの立ち方、口どけや食感の印象が変化する瞬間を確かめていきます。

 

 

最初のセッション「Tempo(テンポ)」が始まる。メトロノームのゆっくりとした音が会場に響くなか、参加者はチョコレートをそっと口に含みました。テンポが速まると、口の中の動きが変わり、噛み方が変わる。すると、チョコレートの味が変わる。隣の席から、小さな驚きの声が漏れてきます。熱心にメモをとる人、目を閉じて集中する人。「驚きっぱなしの90分で興奮した」——会場を出た参加者のひとりは、アンケートにそう書きました。

 

東京・芝浦の森永製菓本社 エンゼルホールで体験型イベント「TAICHIRO MORINAGA -現代の文明開化- 音楽とスイーツがひらく をかしな夜」

 

——音で、味覚が変わる。そう言われて、すぐに納得できる人は多くないはずです。TAICHIRO MORINAGAは、そもそもどんな問いから始まったブランドなんでしょうか。

 

笹倉 蓮さん(以下、笹倉。敬称略):「お菓子をこえる、『をかし』な体験を。」——これは、森永製菓のコンセプトブランド「TAICHIRO MORINAGA(タイチロウモリナガ)」が掲げるブランドコンセプトです。2016年の立ち上げ以来、この問いが根底にあります。1899年、創業者・森永太一郎が、まだキャラメルなどに馴染みがない日本で、西洋菓子づくりを始めた。「現代の文明開化」を名乗るこのブランドは、当時のパイオニア精神を受け継ぎながら、「今の時代に、お菓子をこえる体験とは何か?」を問い続けています。その答えのひとつとして生まれたのが、音楽とスイーツが交わる没入体験イベント「をかしな夜」です。

笹倉 蓮|Ren Sasakura 森永製菓株式会社 新規事業開発部 探索・推進グループ
笹倉 蓮|Ren Sasakura 森永製菓株式会社 新規事業開発部 探索・推進グループ

まずは体験してもらう。それが価値につながる

——今回のイベント、二部構成の設計にはどういった意図がありましたか。

小野 隆さん(以下、小野。敬称略):これまで実施したイベントでは、味の違いを体験していただく取り組みが中心でした。次はもっと癒しにつながるかたちにできないか、チルアウトのような方向はどうかという話を、TAICHIRO MORINAGAブランド担当の笹倉とずっとしていました。

小野 隆|Takashi Ono 森永製菓株式会社 研究所 第一商品開発センター チョコレート開発グループ チョコレートソムリエ、ティーソムリエ
小野 隆|Takashi Ono 森永製菓株式会社 研究所 第一商品開発センター チョコレート開発グループ チョコレートソムリエ、ティーソムリエ

 

笹倉:過去にコンサートを実施したり、万博へ出展したりしてきた経験から、打ち出したい魅力がいくつもあると感じていたのです。おいしいだけでもなく、音楽がいいだけでもない。いろんな情報があるなかで、一貫性を持った取り組みにしていこうと。まずは音と食との関係性について理解を深めていただくセミナーをやり、後半では実際の音楽やイメージを楽しみながら食べていただく構成に至りました。

——前半のセミナーも講義ではなく、体験が主体でしたね。

小野:こちらから一方的に伝えるだけになって、お客様が聞く側にならないよう留意しました。例えば「Tempo」では、メトロノームの音を聴きながらチョコレート「カレ・ド・ショコラ <カカオ70>」を口に含んでいただく。ゆっくりしたテンポでは舐めるように口の中で溶かすことで、コクや濃厚感を感じやすくなります。テンポを速めると口の動きも速くなり、チョコレートが舌にとどまらず噛んでしまいがちになる。舌に接している時間が味わいを左右する、という順序で体験いただきました。

私たちの実生活でも、高級なレストランではゆったりとした曲が流れているはずです。一方でファストフードはテンポの速い曲をかけることが多い。するとお客様は気持ちよく速く食べるようになります。音と食は特別なことではなく、日常生活の中にあることに気づいていただけたかなと思います。

最初のセッション「Tempo」はメトロノームを使用。Slow Tempo / Fast Tempoを聴きながらチョコレートを口に。テンポによる味覚の変化を、知識ではなく体感から伝える設計とした。
最初のセッション「Tempo」はメトロノームを使用。Slow Tempo / Fast Tempoを聴きながらチョコレートを口に。テンポによる味覚の変化を、知識ではなく体感から伝える設計とした。

 

——一貫性のある企画にするために、コンセプトはどう整理しましたか。

笹倉:コンセプトづくりのところでは、お客様が迷子にならず、「音で味覚が変わる、をかしな夜だ」という、その体験自体を楽しんでいただくことにフォーカスしたいと考えました。アマナさんともいろいろなディスカッションをさせていただきながら、今回は弊社主体で考えました。よりお客様に森永製菓の考えや意図をご理解いただけるイベントになったと感じています。

参加者の手元に置かれたお品書きには、Tempo、Frequency、Major / Minor、4 Seasons、Timetripと5つのセッション名が記されています。

 

参加者の手元に置かれたお品書きには、Tempo、Frequency、Major / Minor、4 Seasons、Timetripと5つのセッション名が記されています。来場者はそれを見ながら、順に体験をたどっていきました。

 

参加者のテーブルには、カレ・ド・ショコラや和みテリーヌショコラ、四季のセッションで味わう個包装のお菓子が並んだ。アマナがクリエイティブを手がけたお品書きと、おみやげのうちわも添えられた。
参加者のテーブルには、カレ・ド・ショコラや和みテリーヌショコラ、四季のセッションで味わう個包装のお菓子が並んだ。アマナがクリエイティブを手がけたお品書きと、おみやげのうちわも添えられた。
参加者

科学を、感性に翻訳する

——今回の試みにおいて、アマナに期待したのはどの部分でしたか。

笹倉:やはりクリエイティブに関する部分になります。音と味覚の関係は、どちらかといえば左脳的に捉える科学的なアプローチです。それを右脳的な、感性に訴えかけるかたちにする難しさが、これまでの活動にずっとありました。いかに感覚的にいいな、直感的にいいなと思っていただけるか。それに対して一貫性を持ってアプローチしてくださったのが、すごく助かったところです。

 

アマナは当日の演出に加え、イベントタイトル「をかしな夜」とロゴ、キービジュアル、会場のサインやお品書き、おみやげのうちわ、告知用の素材まで、体験を伝えるためのクリエイティブと設計を手がけました。ネーミングは複数の方向性を検証したうえで、創業者・森永太一郎のパイオニア精神と「現代の文明開化」というブランドストーリーに重ねる案が選ばれています。セミナーと音楽体験という二部構成の演出プランも、複数案を出して森永製菓とのディスカッションを重ねながら固めてきました。

会場入口のサインや投影資料などはアマナが制作。イベントタイトルとロゴ、キービジュアルの開発から、サインやお品書き、おみやげのうちわのディレクションまで一貫して担った。
会場入口のサインや投影資料などはアマナが制作。イベントタイトルとロゴ、キービジュアルの開発から、サインやお品書き、おみやげのうちわのディレクションまで一貫して担った。
会場入口のサインや投影資料などはアマナが制作。イベントタイトルとロゴ、キービジュアルの開発から、サインやお品書き、おみやげのうちわのディレクションまで一貫して担った。
会場入口のサインや投影資料などはアマナが制作。イベントタイトルとロゴ、キービジュアルの開発から、サインやお品書き、おみやげのうちわのディレクションまで一貫して担った。

 

言葉になりきらない感覚は、クリエイティブの側でも扱われていました。イベントロゴの文字の造形には、音の余韻が感覚をほどき、夜へと溶けていくという意図が置かれています。少しあやしく、少し不思議。その曖昧さを、会場を訪れる前の期待に変えるための設計でした。

——曲の選び方についてもうかがえますか。例えば四季の「秋」では、パッヘルベルの「カノン」が使われていましたが、どのように選定されたのでしょう。

小野:以前、「カレ・ド・ショコラ <フレンチミルク>」の味わいを複数の人に書き出してもらったことがあります。カカオ感のあるブラウニーのような味、アーモンドやピーナッツを思わせるナッツ感。フランスの焦がした乳を使っているので、キャラメルやミルク、チーズのような乳製品の風味。少し土のような味という声もありました。それをAI解析にかけて情緒的な表現に変換すると、「広々とした温かい公園」という言葉になったのです。3年ほど前、AIがここまで広く浸透する手前の時期に取り組んだのですが、今回はその情景に合う曲としてパッヘルベルの「カノン」を選び、さらに周波数を調整しプロの奏者に演奏してもらい、ミルクチョコレートのコクをより引き上げられないかと考えました。

森永チョコレート カレ・ド・ショコラ フレンチミルク

言葉になっていない感覚を、どう扱うか

——価値を言語化するのは、プロジェクト推進において重要な要素となりますよね。

笹倉:一般的には価値を言語化してから動くのだと思います。ただ、音を聴きながら味を感じるという領域は、言語化される前の段階だと考えています。お客様が「何かいいな」「何か混ざっている感じがする」とおっしゃる。耳で聴いて「いい音楽だ」、食べて「おいしい」とそれぞれ感じるよさがあります。さらに耳で聴きながら食べると、また別のよさが感じられる。「いい」が混ざっていくような感覚は、まだ言葉にしきれていない部分があるのかなと思っています。

例えばサウナで「ととのう」という言葉がすごく広まりましたよね。「何かいいな」と思っていた感覚を、「これだ」と言葉にしたことだと思うのです。今の私たちには、その前の段階の感覚がある。そこを突き詰めていく、探求のフェーズなのかなと。

参加者

 

また「記憶」がキーワードになりそうだなと。自分の思い出との結びつきが結果的に没入体験につながって、それが価値になっていく。何かと結びつくということが、ヒントになる、価値になる可能性があると思っています。

——記憶とのつながりという点で、プログラムの最後「Timetrip」はまさにそのコンセプトでしたね。

小野:森永製菓の商品にはロングセラーがいくつかあります。何かいいな、と感じてもらうための「体験」を考えるなかで、子どもの頃に食べた森永製菓のお菓子があるのではないかと。それで「Timetrip」ではノスタルジーを感じるような曲や構成を選択したのです。参加者からは「懐かしい」「久しぶりに食べた」という声もありました。コンセプトを変えれば、また違う選び方も出てくると思いますね。

プログラムの最後「Timetrip」は「大正時代へキャラメルトリップ」と題し、流れる曲を聴きながらロングセラーのミルクキャラメルを体験する流れ。
プログラムの最後「Timetrip」は「大正時代へキャラメルトリップ」と題し、流れる曲を聴きながらロングセラーのミルクキャラメルを体験する流れ。

体験の価値を企業の価値にする

——実際のお客様の反応や手応えはいかがでしたか。

小野:後半の春夏秋冬のパートでは、季節に合わせた音やストーリーを感じながら食べていただきました。味の違いを体験できて驚いたという方がいらっしゃいましたが、感じ方は人それぞれなので、いただいた声をもとに今後さらにブラッシュアップしていきたいです。来場者の顔ぶれも従来はクラシックや芸能を好む方が多かったのに対し、今回はお菓子が好きな方、森永製菓の商品により親近感を抱いていただけている方のほうが多いように感じました。

笹倉:普段から豊かな表現に触れたり、体験したりすることを好む方——美術館が好きな方などに来ていただきたいと考えていました。今回のお客様の様子を見ても、頭のなかで空想が広がっているような方がいらっしゃいました。熱心にメモをとっている方もいて、感性が豊かな方々に来ていただけたかな、と思います。アンケートでも参加動機のトップは「音で味覚が変わるという驚き・知的好奇心」で93.3%。年齢は30代から40代の方が中心でした。深く刺さる方がどなたなのかを検証していくフェーズなので、事後のアンケートをしっかり見て次に活かしたいと思います。

——会場での体験を持ち帰ることができる体験セットも販売されました。

笹倉:今回販売した体験セットも、試したかったことのひとつです。実際に購入いただけるのか、新しいサービスとして可能性を見たいという思いがありました。体験セットは「和みテリーヌショコラ 3個入」「薫ル TEA SELECTION 焙ジ茶 or 紅茶」「音楽カード」で構成されます。カードにスマートフォンをかざすと、楽曲が埋め込まれたページに遷移する仕組みです。自宅でゆっくりしながら音楽を流して、味の変化を探していただく。そんな五感に向き合う時間にできたらと思っています。

 

結果として、参加者のうち40%が体験セットを購入しました。購入者全員の動機が「夫や家族、母親にこの体験をさせたい・驚かせたい」という、他者との共有ニーズでした。「感動を大切な人と分かち合いたい」という体験ギフトとしての可能性が、はっきりと見えてきた瞬間でした。

数量限定で販売された「TAICHIRO MORINAGA 音楽とスイーツがひらく をかしな体験セット」(2,160円)。音楽カードにスマートフォンをかざすと楽曲ページへ移動する。
数量限定で販売された「TAICHIRO MORINAGA 音楽とスイーツがひらく をかしな体験セット」(2,160円)。音楽カードにスマートフォンをかざすと楽曲ページへ移動する。

 

——今後、森永製菓のビジネスとしての広げ方をどう見ていますか。

小野:ストレス社会に対して、スイーツと音楽で改善できる方法があるのではないかと話しています。BtoBや福利厚生など、今まで考えられてこなかったところで展開できる余地があるのではないかと。こういったイベント単体をビジネスにするのではなく、体験することで口コミで広めていただいたり、体験セットを買っていただいたりする循環を育てていきたいですね。「もの」より「こと」と言われますが、「もの・こと」が一緒になったものが、これから求められるのではないでしょうか。

——森永製菓にとって、体験価値に取り組む意味は何でしょうか。

笹倉:食品メーカーとして食をお届けすることは、これまで120年以上やってきました。これからは、それを体験価値に昇華してコミュニケーションとして伝えていくことが求められると思います。食を楽しむ=おいしいだけではないその先の価値をどうつくっていくのか。そのコミュニケーションには別のアプローチが必要です。音だったり、クリエイティブだったり、空間づくりだったり。そんなところにも力を入れて、五感で楽しめるようなチャレンジをしていきたいと思います。

小野:普段の生活のなかで、楽しいことも悲しいこともある。仕事が忙しくてイライラすることもある。そういうときに心に響く音楽を聴いたり、好みのスイーツを食べたりする。そのなにげない時間が、不思議と心を癒してくれて、笑顔になったり、勇気をもらえたりするのではないか。我々はそういうところも考えながら、食と音楽の相乗効果を考えたいと思います。

 

言語化されていない感覚を扱うプロジェクトでは、成果の測り方も定まりません。体験イベントを通した顧客満足、そして体験セットという物販を同じ設計のなかに置いたことで、新たな検証の輪郭は見えてきました。「体験の感動を、大切な人と共有したい」——参加者が自然と口にしたその言葉が、次のステップへの手がかりになっています。感性を科学で捉え、それを再び感性へ翻訳して届ける。その循環をどのように事業として育てられるか。「をかしな夜」は、その問いの入口に立ったところです。

東京・芝浦の森永製菓本社 エンゼルホールで体験型イベント「TAICHIRO MORINAGA -現代の文明開化- 音楽とスイーツがひらく をかしな夜」

 

取材・文:桑原 勲
取材撮影:佐藤 万智弥(アマナ)
動画制作:BeeDot
 

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