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シスメックス|「血液の専門家」を街の会話に変えたブランドコミュニケーション

シスメックス|「血液の専門家」を街の会話に変えたブランドコミュニケーション
Update

この記事でわかること

  1. 社名認知より「血液の専門家」を先に伝えると決めた判断と、長期経営戦略が広げた生活者接点

  2. 専門性を“誰かに話したくなる知識”へ翻訳する発想、トリビアとして成立する/しない境目の見極め

  3. 大阪メトロ御堂筋線のアドトレインという選択、経済産業大臣賞受賞と企業認知の向上という成果

BtoB企業にとって、一般生活者は直接の顧客ではありません。だからこそ、専門性をどう伝え、どう関心を持ってもらうかは後回しにされがちです。ただし、事業の価値が社会に理解されなければ、企業がなぜ存在するのかも伝わりません。血液や尿などの検体検査用の機器や試薬などで世界中の人々の「健康」を支えるシスメックスは、この問いに正面から向き合ってきました。

 

「大阪・関西万博」に合わせて御堂筋線を走ったアドトレイン「血液トリビア」。
「大阪・関西万博」に合わせて御堂筋線を走ったアドトレイン「血液トリビア」。血液にまつわる“話したくなる”知識を車内に展開。第47回 日本BtoB広告賞 経済産業大臣賞受賞


「血液の専門家」という専門性を、「誰かに話したくなる血液トリビア」へと翻訳し、大阪メトロ御堂筋線のアドトレインで届けた本施策は、第47回 日本BtoB広告賞で経済産業大臣賞を受賞。専門性を生活者の“自分ごと”に変えるために、何を考え、どう表現したのか。シスメックスとアマナのプロジェクトメンバーに話を聞きました。

 

「血液の専門家」を知ってもらう――生活者と向き合う理由

――シスメックス株式会社は検体検査を主力としていますが、なぜ一般生活者に向けたコミュニケーションに取り組みはじめたのでしょうか。
 
江畑早紀さん(以下、江畑。敬称略):シスメックスは血液や尿を調べる検体検査用の機器や試薬を製造・販売する医療機器メーカーです。私たちの製品は、世界中の国で、健康診断や診療で行われる検査を支えています。検査に必要な機器やサービスを提供していますが、直接のお客様は主に医療機関です。生活者の方との接点はかなり限られていて、社名を知ってくださっている方もまだ多くはありません。

 

シスメックス株式会社 コーポレートコミュニケーション本部 広報部の鞍田奈津子さん、江畑早紀さん、横溝れいさん(左から)。
シスメックス株式会社 コーポレートコミュニケーション本部 広報部の鞍田奈津子さん、江畑早紀さん、横溝れいさん(左から)。「より良いヘルスケアジャーニーを、ともに。」という長期ビジョンのもと、血液検査を通し人々の健康に貢献する姿勢が、生活者コミュニケーションの起点になっている。

 

だからこそ、社名を知っていただくことも大切ですが、「何のために事業をやっているのか」「社会にどんな価値を提供しているのか」を伝えることも重要だと考えています。長期ビジョンとして「より良いヘルスケアジャーニーを、ともに。」を掲げ、健康なときの予防から、病気になったとき、治療のときに至るまで、一人ひとりのヘルスケアに検査を通じて寄り添っていきたい。その実現には、医療機関だけでなく生活者の皆さんが健康に関心を持ち、検査の価値を理解してくださることが欠かせません。まず検査や血液を身近に感じていただき、その先で「シスメックスがどんな会社か」を知っていただく。そうやって企業認知と理解の向上につなげたいと考えています。
最初に置いた期待効果も、「シスメックス=血液の専門家」という認知をつくることでした。単に社名を広く知ってもらうよりも、血液に詳しく、技術力と専門性がある会社だというイメージを持っていただく。競合と比較して選ばれるという以前に、まずそのイメージを浸透させることを重視しました。正直、弊社とあまり接点がなかった一般の生活者の間では、認知度がまだ高くない状況でもあります。まずは強度の高い企画で世界観を一気に演出し、しっかりイメージを持っていただくことを狙いました。

 

江畑 早紀|Saki Ebata シスメックス株式会社 コーポレートコミュニケーション本部 広報部 係長
江畑 早紀|Saki Ebata
シスメックス株式会社 コーポレートコミュニケーション本部 広報部 係長

 

専門性を“話したくなる知識”に翻訳する――血液トリビアの発想

――血液という専門性の高いテーマを、「トリビア」という切り口で進めた経緯をお聞かせください。
櫻井ノマド(以下、櫻井。敬称略):シスメックスさんは以前の施策から担当していて、それまでは企業メッセージを伝えるコミュニケーションが中心でした。ただ、血液のことは広告の中で具体的に言及しづらい制約もあります。どうすれば「血液に詳しい会社だ」と伝えられるか――そう考えていたときに、たまたま書店の健康コーナーに立ち寄ったのです。血液に関する本がいくつも並んでいて、手に取ると面白いトリビアがたくさん書いてある。この“血液の知識”を入り口にすれば、生活者の興味をつくれるのではないか。そう気づいたのがきっかけでした。

 

櫻井 ノマド|アマナ クリエイティブディレクター/コピーライター
櫻井 ノマド|アマナ クリエイティブディレクター/コピーライター

 

鞍田奈津子さん(以下、鞍田。敬称略):シスメックスは、2033年に向けた長期経営戦略にて従来の医療機関向け事業の深化に加え、価値提供の対象を患者さんや生活者の皆さまへと拡げていくことを目指しています。そのため、医療関係者に加えてより多くの方々に当社の存在意義や取り組みをお伝えできるよう、広告の掲出対象を拡大したという経緯がありました。
アマナさんに相談する中で、「通りすがりに“なんだか面白い”と思ってもらえる」企画として血液トリビアを出していただいた。その切り口が大きかったと思います。ちょうど大阪・関西万博のタイミングでもあり、一般の方に幅広く知ってもらう企画として、血液トリビアが一番ふさわしいと考えました。
社名を前に押し出すべきという考え方もありますが、自分たちの主力事業である血液検査そのものが皆さんにとって重要なのだと知っていただくことを、社名を知っていただくのと同じくらい大切だと捉えていました。まずは血液について知ってもらい、その先で「シスメックスが血液に詳しい会社」なのだと知っていただけたらいい。
 

鞍田 奈津子|Natsuko Kurata シスメックス株式会社 コーポレートコミュニケーション本部 広報部
鞍田 奈津子|Natsuko Kurata
シスメックス株式会社 コーポレートコミュニケーション本部 広報部

 

 学校で習うような、誰もが知っていることではトリビアになりませんし、かといって専門的すぎても面白くありません。「そうなんだ」と思えるライン――その塩梅を社内でかなり議論しました。お互いに案を出し合い、事実として正しいか、トリビアとして成立するか、専門的すぎないかを一つずつ確認して決めています。誰かに話したくなる知識に翻訳できるかどうかが、最後の分かれ目でした。 
 

誰もが知っていることから一歩先へ。専門的すぎず、それでいて“話したくなる”絶妙なラインを社内で何度も検証し、トリビアと言える内容を選んだ
誰もが知っていることから一歩先へ。専門的すぎず、それでいて“話したくなる”絶妙なラインを社内で何度も検証し、トリビアと言える内容を選んだ。

 

日常の空間を選ぶ――御堂筋線アドトレインという決断


――数ある手法の中で、なぜ御堂筋線のアドトレインだったのでしょうか。
江畑:アマナさんには、個別の施策というより、広報が掲げる企業理解・認知やコーポレートブランドのブランディングの課題を共有し、どんな施策が良いかを年間を通じて支援いただいている形です。限られた広告予算の中で効果を出すため、大阪・関西万博の盛り上がりに合わせて施策を集中させ、認知の山場を作ることは決まっていました。その盛り上がりに一番効く目玉の企画がアドトレインだった、という順番です。ただ手法ありきではなく、万博開催期間中に地元の方に加え、国内外の多くの方が乗車することを想定した時、最適な企画が血液トリビアのアドトレインでした。大規模なOOH(交通・屋外広告)はそもそも実績がなく、初めての取り組みでしたが、前年度の予算検討のときにアマナの由良さんから「トレインジャック、取れます」とご提案いただいたのが出発点です。一般の方との接点を増やすことが広報の重要なテーマだったので、それを踏まえて決めました。

由良浩樹(以下、由良。敬称略):大阪・関西万博の会場につながる路線や、会場に向かう駅を通る路線など、いくつかの候補をメディアプランナーから出し、費用対効果も含めて意見交換しました。トレインジャックはPRとしても取り上げられやすい。そうした点も踏まえて、最終的に決めていただいた経緯です。
 

由良 浩樹|アマナ プロデューサー
由良 浩樹|アマナ プロデューサー


鞍田:御堂筋線は大阪・関西万博会場への直通路線ではありません。ただ、地方から万博に来られた方が大阪で宿泊し、観光もされるだろう、と。夏休み期間でもありましたし、御堂筋線は“大阪の大動脈”と言われる路線です。万博の行き帰りに見ていただく効果も期待できる。費用対効果も考えながら、この路線にしました。
――薄く広く展開する手もあるなかで、一つに集中して投下するのは勇気のいる決断だったのではないでしょうか。
江畑:これまでYouTube広告なども配信してきましたが、一度、路線を集中的に決めてターゲットを絞り、なおかつその地域を含めてYouTube広告を重ねたら、どれくらい認知度が上がるのか――それを実践的に試してみたかった。トライアル的な意味合いもありました。実際にやってみると、効果も手応えがありました。
鞍田:駅に大きく出すなどいろいろな手はありますが、車両全体がトレインジャックでシスメックスの広告に染まると、世界観を統一して見せられる。費用対効果の面でも、そこは利点だったと思います。

御堂筋線の車内に掲出するビジュアル確認用に使った色校正。“大阪の大動脈”御堂筋線を舞台に、車両まるごとで世界観を統一。薄く広くではなく、時期と場所を絞って集中投下するトライアルでもあった
御堂筋線の車内に掲出するビジュアル確認用に使った色校正。“大阪の大動脈”御堂筋線を舞台に、車両まるごとで世界観を統一。薄く広くではなく、時期と場所を絞って集中投下するトライアルでもあった。

 

単発で終わらせない――メディアを束ねる設計

――動画CMや交通広告を、どのように連動させたのでしょうか。
櫻井:既存のキャラクターを用いた動画CMも並行して配信し、車内にも掲出して連動感をつくっています。車内のトレインビジョンも差し替え、同じ世界観でつなげました。
由良:ベースは継続してきたコミュニケーションを走らせつつ、知識系のコンテンツは、ある程度の接触時間がないとシスメックスまでたどり着きません。だからトリビアは、人が一定時間とどまる電車内でしっかり理解してもらうために、あえてオフラインに振り切りました。今後、こうした内容を配信していく展開もあり得ますが、まずは“留まって読める”場に最適化した、ということです。
櫻井:血液トリビアはポスターで展開しつつ、一部電車内の映像でも展開しています。同じ素材を同じ場所に出すのではなく、接点ごとに最適な見せ方を選んだ結果です。
 

動画CMはオンライン、血液に関する知識は“留まって読める”電車内へ。動画CMのキャラクターを車内にも掲出し、同じ世界観でつないだ。接点ごとに役割を分けながら束ねることで、理解の深さを設計ししている
動画CMはオンライン、血液に関する知識は“留まって読める”電車内へ。動画CMのキャラクターを車内にも掲出し、同じ世界観でつないだ。接点ごとに役割を分けながら束ねることで、理解の深さを設計ししている。

 

社内外の反応、受賞、そしてこれから

――社内外からは、どのような反応がありましたか。
横溝れいさん(以下、横溝。敬称略):そもそも、こうした一点集中のPRをあまり実施してこなかったため、広報部外の従業員からは驚きの声がありました。今回の施策が多くの生活者の目に留まり、興味を持ってもらえたことに加えて、社内のいろんな部署から「このビジュアルを使いたい」という問い合わせもあり、嬉しかったです。

横溝 れい|Rei Yokomizo シスメックス株式会社 コーポレートコミュニケーション本部 広報部

横溝 れい|Rei Yokomizo
シスメックス株式会社 コーポレートコミュニケーション本部 広報部

 

鞍田:夏休み期間に実施したこともあって「子どもを連れて見に行きました」など、多くの従業員から好意的なコメントが寄せられました。シスメックスは健康に関わる正確さが求められる事業を手がけていることもあり、どちらかといえば真面目な会社というイメージが社内にもあったと思うのですが、いい意味でその殻を破れた。これまでのシスメックスの広告らしくない新しい取り組みが好意的に評価されたのは、社内的にもとても良かったと思っています。
横溝:今回のアドトレインがSNSで拡散されたり、広告メディアに掲載されたりと、これまでにない認知の広がりがありました。実際、広告実施後の調査会社によるレポートでは、御堂筋線利用者における企業認知が上昇した結果が見られました。シスメックスを初めて知っていただけた人はもちろん、これまで知っていた人も「医療への貢献」「専門性」といったイメージが向上したというデータも得られました。
また採用の場面でも、これまでにない反応がありました。「御堂筋線でやっていましたよね」と知ってくれている学生の方がたくさんいて、会社を知るきっかけづくりに貢献できたことを実感しました。
――第47回 日本BtoB広告賞 経済産業大臣賞の受賞を、どう受け止めていますか。
江畑:とても嬉しかったです。冒頭からお伝えしている通り、私たちはこうした規模のOOHが初めての取り組みでしたし、賞に応募すること自体も初めてでした。しかも経済産業大臣賞という一番上位の賞をいただけた。まずは驚き、そして嬉しさと、「挑戦してよかった」という気持ちを、みんなが持っていたと思います。
由良:実は昨年、別の動画CMで応募を検討したのですが、ちょうど当てはまる部門がなくエントリーできなかった。それが今年、この企画で受賞につながりました。続けてきたことが、形になったと感じています。

 

シスメックスのイメージを、ポジティブな面で更新した施策。社内からは驚きや共感が寄せられ、企業イメージが向上した調査結果も得られた。そして初応募での経済産業大臣賞受賞につながった
シスメックスのイメージを、ポジティブな面で更新した施策。社内からは驚きや共感が寄せられ、企業イメージが向上した調査結果も得られた。そして初応募での経済産業大臣賞受賞につながった。

 

――今後、企業認知や企業理解をどう深めていきたいと考えていますか。
江畑:今期から少し方向転換しているところがあります。血液の専門家として知っていただくステージから、私たちが向かう方向性や提供する価値に共感してもらうところまで引き上げていきたい。それが今の命題です。入り口として「血液の専門家」というメッセージは有効ですが、その先にどんな未来を描いているのかを、しっかり伝えていきたい。今期の施策も、アマナさんとディスカッションしているところです。
鞍田:「血液の専門家」であることと並行して、シスメックスが何者で、何を価値として提供しているのか――そちらにもフォーカスしていく。血液の専門家であると同時に、その先の価値まで届けていく段階だと考えています。
 
専門性は、そのままでは生活者に届きません。シスメックスの取り組みが示すのは、「血液の専門家」という強みを、街で思わず読みたくなる“話のタネ”に翻訳し、人が留まる日常の空間で手渡す――という一連の設計でした。社名を急いで覚えてもらうより、まず「血液って面白い」と感じてもらい、その先で会社に出会ってもらう。順番を組み替えたことが、社内外の共感と受賞につながっています。
自社の専門性を、顧客ではない生活者の言葉にどう置き換えるか。どの接点なら、伝えたい深さまで届くのか。BtoB企業のブランドコミュニケーションを考える一つの手がかりになるはずです。アマナは、企業がもつ技術や専門性を、生活者が体験できるブランドの言葉・表現へと翻訳することを強みに、課題整理から企画、表現設計、メディア展開、効果検証までを伴走しています。
 

クライアント/スポンサー:シスメックス株式会社

<スタッフクレジット(全てアマナ)>

アカウント/プロデューサー:由良浩樹
プランナー:櫻井ノマド
アートディレクター:木村龍太郎
メディアプランナー:成田 洋

取材・文:桑原 勲
撮影(ポートレート):INFOTO

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