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AI時代、企業の表現は何で差別化するかーーアマナが「声のデザイン化」で示した答え

AI時代、企業の表現は何で差別化するかーーアマナが「声のデザイン化」で示した答え
Update

この記事でわかること

  1. 生体情報を素材に「世界にひとつ」のデザインを生む、アマナの新サービス「WEARCODE」と第一弾ブランド「somark:」の事例
  2. 声がグラフィックになり3~5分でTシャツになるまでの、体験としての設計と現場での手応え
  3. 自社が持つデータや顧客の固有性を、模倣されにくい「語れるブランド表現」へ変えるための視点

生成AIが浸透し、ビジュアルは誰でも大量につくれるようになりました。しかし「思わず誰かに話したくなる」表現、受け手が「自分ごと」として愛着を抱く表現は、AIによる量産の先にはありません。アマナは人間の「声」をその場でグラフィックに変換し、一着のTシャツに落とし込む体験型アパレル「somark:(ソマーク)」を出展するイベントを実施しました。


取り組んだのは声・心拍・筆跡といった“生体情報”を素材に、世界にひとつのデザインを生み出すプロジェクト。単なる新技術ではなく、テクノロジーを「語れる体験」に翻訳するクリエイティブの可能性を問う実験でした。プロジェクト統括の川田達也、テクニカルディレクター新村卓宏、アートディレクター徳増勇太の3人に、その発想と設計の裏側を聞きました。

「自分のアイデンティティを着る」という発想  


ーーsomark: は、どのような座組みから始まったのでしょうか。
 

川田達也(以下、川田。敬称略):この取り組みは、Tシャツをはじめとするノベルティを手がけるプラスワンインターナショナルとアマナの協業として立ち上がりました。プラスワンさんがアマナのオフィスに来られたとき、エントランスに展示してある「ヒューマノイザー」という装置を体験いただいたのです。それは本プロジェクトメンバーの新村が手がけたものですが、“ヒューマン”に“ノイズをかける”という意味を込めたものでした。

川田達也|アマナ プロデューサー


新村卓宏(以下、新村。敬称略):ヒューマノイザーは、自分のポートレートを取り込み、ミキサーのようなつまみを操作すると画像も音も変化していきます。写真をグラフィック化する体験装置ですが、デジタル化が進んだいまの時代に、手触り感のあるアナログな体験とテクノロジーが掛け合わさっているものです。“アマナさんはこんなことができるんですね”という言葉をいただき、そこから一緒にやりませんか、と。

新村卓宏|アマナ FIGLABテクニカルディレクター


川田:プラスワンさんはTシャツやトートバッグをはじめとした各種ノベルティを量産・販売する企業で、店頭では持ち込んだ画像を即日プリントするサービスも展開しています。従来の枠を超えた取り組みを求めていた先方に対し、アマナが技術とクリエイティブを掛け合わせて提案したーーそれが出発点でした。

アマナのオフィスエントランスに設置された体験装置「ヒューマノイザー」。プラスワン社がアマナと組む契機となった体験装置。自分の写真を取り込み、つまみ操作で画像と音が変化する。手触り感とテクノロジーの融合が、協業の起点となった。


ーーそこから「生体情報」という発想に、どうたどり着いたのですか?

新村:当初は「自分の写真をTシャツにする」に近いものでした。しかし検討を重ねる中で、方向は大きく変わっていきます。そもそも自分の写真がプリントされたTシャツを着たいと思わないよね、じゃあ〝着たい〟を超えて“着るべきもの”は何かと。アイデンティティは感じられるけれど、あからさますぎないもの。自分の中ではつながりがあって楽しめるけれど、他人が見て必ずしも認識できなくてもいい。そのくらいの温度感のものがいい、と。


そこで浮かんだのが、言葉や心拍、そして声といった“誰にでもある情報”をグラフィックに変換するという発想でした。自分のチームはもともと、写真をグラフィック化するサービスを展開していましたので、ものを個人化する、自分の何かをつくってそれを着られるものに昇華することにつながりました。そこから、全体的なフレームを設計したのが徳増でした。
 

徳増勇太(以下、徳増。敬称略):データをグラフィックにし、デザインがよく、着たくなるTシャツをつくりたい、というテーマでした。まずそれを自分が着たときに本当に面白いのか、価値として拡張していけるのか、と考えました。声だけでなく筆跡や感情、関係性まで枠組みを広げ、それを一度アート表現に落とすとどうなるか、それが差別化になるのではと。いっそのこと“生体情報を扱うブランド”にしてしまった方が、いろいろなことができるのではないか、と提案しました。

徳増勇太|アマナ アートディレクター

なぜ〝生体情報〟だったのか
 

ーー数ある切り口の中で、なぜ「生体情報」を選んだのでしょう。
 

新村:ブランドの価値って、少しハリボテっぽく感じてきているところがあると思うのです。言ってしまえば、企業がつくったストーリーにどれだけ自分が乗るか、という話になってきている。お金で手軽に乗れるから、「私はこのブランドの雰囲気を持っている人」という感じにしたい、と。


そうではなく、自分のストーリーを乗せる方が「今っぽい」のではないか。短くても何でも、自分のストーリーをどう表現するか。しかもその体験も含めて喋るとネタになる。そういう考え方が、このプロダクトの最初にありました。
 

川田:企業が用意した物語を消費するのではなく、受け手自身の“固有の何か”が表現の核になる。声や心拍といった生体情報は、誰もが等しく持ちながら、二つとして同じものがありません。だからこそ「世界にひとつ」を、演出ではなく必然として成立させられるーーここに、このプロジェクトの可能性があります。


ーー「一人ひとり違うものが生まれる」ことを、どのように企業の価値として設計したのですか?
 

徳増:プラスワンさんが元々持っていた「思い出を形にする」「特別な体験を提供する」というブランドイメージに接続できるものでないと、意味がないと考えました。個人の固有性を起点にしながら、それをブランドの世界観へと翻訳する。単なるカスタマイズではなく、生体情報のデザイン化(身体的個性)と、ユーザー自身による再構築(内面的個性)という二段階の“自己表現”として設計されているのは、そのためです。

録音した「声」の周波数・強さ・ピッチなどをデータ化し、グラフィックへ変換する。生のデータをそのまま出すのではなく、一度アート表現に落とすことが設計の核となっている。

〝声〟が、デザインになるまで
 

ーー具体的に、「声」はどのような流れでグラフィックになるのでしょうか。
 

川田:第一弾となった「somark:overtone(オーバートーン)」は、声を素材とするラインです。overtoneは「倍音」を意味します。体験の流れはこうです。まずマイクに向かって声を録音します。すると、あらかじめ用意された6パターンのグラフィックが、声の波形ーー周波数や強さ、ピッチーーに応じて色や形を変えながら動き出します。録音した後、6個のうち3つ、どれにしようかなという作業になります。


新村:結果から選ぶというより、操作しながら選んでいく、という感じですね。ユーザーは専用のコントローラーのつまみを操作し、グラフィックを動かし、レイアウトを決めていきます。最終的な一着には、選んだ3つのグラフィックが配置されます。


声の入り方によって色が変わるものと、ランダムに変わるものがある。「自分のコア色」のようなものが気になる方もいらっしゃるので、そういう体験も探っています。同じ人が話しても、話し方やタイミング、声の大きさで少しずつ変わる。まったく同じものは二度とつくれないーーその偶発性こそが、体験の面白さです。

マイクに声を録音するとグラフィックが自動生成され、コントローラーで動かしながら3枚を選び、レイアウトを決める。サイズを選んでオーダーすると、3~5分程度でTシャツにプリントされる。


 

ーー誰が操作しても“ブランドらしい、美しい”仕上がりにするために、どんな工夫をしたのでしょう。
 

徳増:まず、自由に動かせるようにしたところで、自由だと面白い体験になるのか、本当にそれが自分のアイデンティティと言えるのか、がポイントでした。だから枠組みをしっかりつくり、その中に落とし込んだ上で、ある程度自由にデザインしても破綻しないことを狙いました。枠があるからこそ把握しやすく、自分の意思で動かしている感が生まれるのではないかと。


さらに、それがファッションとして成立し、ブランドイメージも付与しなければならない。要素も制限も非常に多い中で成立させるために、何時間も話し合いました。
 

ーー設計の核心ともいえる部分ですね。


新村:そうですね。本当は、みんな全然違うものにしたい。幅をすごく持たせたかったのです。でも、幅を持たせるということは“カッコ悪いこと”を許容することにもなる。それを許容するほど幅を持たせていいのか。幅を狭めれば狙ったものが出てくるけど、単調にならないか。その狭め方を、かなり議論して決めていきました。


答えのひとつが「3つのアウトプット」でした。当初は1つのアウトプットで成立させようとしましたが、大味になり、仕上がりの振れ幅が大きすぎた。3パターンのアウトプットを出すことで安定し、一定の質を超えやすくなりました。


徳増:1枚だと人によって大きく外れてしまい、“これかー”となってしまう。ファッションディレクターからの助言でもあったのですが、統一感のある雰囲気をまとった3つを出すことで、世界観やブランド感が伝わりやすくなると。実際にやってみたら、確かに納得感が得られる結果になりました。

川田が着ているのは、実際に制作されたTシャツ。同一人物でも毎回変わり、その場だけの1枚になる。声の数値もキャプションとしてプリントされ「これは自分の声だ」という固有性の証になる。


ーーデザイン上、特にこだわった点はどこですか?


徳増:音声の情報が数値として出るのですが、それがキャプション的に入ることは実現したいと思いました。それがないと、おしゃれなTシャツで終わってしまう。数値があることで、“これ、自分の声のデータだよ”というコミュニケーションが生まれやすくなる。
プリントされるのは、周波数の強さや、低音・中音・高音のバランスといった、その人の声から抽出された固有の数値。グラフィックが「なぜこの形なのか」を裏づける、いわば個体識別の証です。見た目の美しさと、語れる意味。その両方を同時に成立させることが狙いでした。
 

技術を「語りたくなる体験」に変える
 

ーー実際にイベントで販売してみて、どんな手応えがありましたか?(2026年5月、天王洲で開かれた「TENNOZ CANAL FES」 )

川田:やってみて思ったのは、“かっこいいから買う”お客さんよりも、“子供が喋ってくれたから”とか“自分は声優をやっているから”という理由で、すごく喜んでくださる方が多かったのです。見た目のよさはもちろんですが、自分に関するストーリーがあり、誰かに話すきっかけにもなること。その意味や文脈が、すごく刺さっている感じがしました。


この手応えは、生成AI以降のクリエイティブが直面する課題への、一つの応答でもあります。量産できるビジュアルがあふれるほど、「なぜそれを選ぶのか」「なぜ語りたくなるのか」という理由が価値になる。技術そのものではなく、技術を「語れる体験」に翻訳できるかどうか。ここに、この取り組みの本質があるのではないかと。
 

2026年5月、天王洲キャナルフェスにて開催されたイベントの様子。来場者はそれぞれが「somark:overtone」の〝語れるストーリー”を体験。年齢性別を問わず興味関心をひく手応えを得られた。

ーー今後、この取り組みをどう発展させ、どんな企業との取り組みが考えられますか?
 

川田:アマナは、この生体情報のビジュアライズを「WEARCODE(ウェアコード)」というサービスとして展開していく構想を持っています。「somark: 」はそのアパレルブランドであり、声のライン「somark:overtone」はその第一弾と位置づけています。まずは声以外のラインもどんどんやっていきたいですね。たとえば靴やスポーツメーカーなら、足や体幹の測定データが取れる。化粧品、ヘルスケア、医療ーー身体に関する情報を取る仕組みを持つ企業なら、そのデータをインプットにしてアウトプットへつなげられます。せっかくデータを持っているなら、一緒に開発していきたいですね。


また、アーティストとファンの関係性を感じられるプロダクトにもなるのではないでしょうか。アーティスト本人の声がTシャツになり、ファンがそれをカスタマイズできる。相互的な関係性を感じられ、ストーリーが生まれるような。アパレルに限らず、マグカップ、ノートといった雑貨、あるいは伝統工芸との組み合わせ。「生体情報を素材に、何かをビジュアライズする」という枠組みそのものが、可能性を持ちます。新しい顧客体験や、これまでにないブランド表現を模索する企業にとって、自社の“固有の資産”を語れる表現へ変えるーーその入口として、この取り組みは開かれた存在でありたいと思います。


生成AIによって、表現の“量”のハードルは劇的に下がりましたが、受け手が思わず語りたくなり、自分ごととして愛着を抱く表現は、量の先には自動的には生まれません。「somark: 」が示したのは、生体情報という誰もが持つ固有性を起点に、技術を「語れる体験」へと翻訳するクリエイティブの可能性でした。
 

自由度と破綻のあいだで“幅”を精緻に設計し、ファッションとして成立させ、数値キャプションで「自分の声だ」という意味を宿す。この一連の翻訳がなければ、生体情報はただのデータに、Tシャツはただのプリント商品に留まっていたでしょう。
自社が持つデータや、顧客・従業員一人ひとりの固有性を、どんな新しい表現に変えられるか。その問いに向き合うすべての企業にとって、この小さな一着の実験は、大きなヒントを含んでいます。

 

協業パートナー:株式会社プラスワンインターナショナル
<スタッフクレジット>
ソリューションオーナー/プロデューサー:川田達也
プロデューサー:橋口学
アートディレクター:徳増勇太
テクニカルディレクター:新村卓宏
コピーライター:小原景介
フォトグラファー:カクユウシ
アシスタントフォトグラファー:中山裕貴、赤司大地
レタッチャー:木村凌
プログラマー:村上篤(合同会社Senju Motomachi Souko)
ムービーエディター:轡田創(フリー)

取材・文:桑原 勲
写真:INFOTO

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