キングジム|ヒット商品の裏にある「共通のDNA」を言語化する

この記事でわかること
- 周年記念で発信するメッセージを具現化・具体化するには、拠り所となる指針が必要。
- 全社共通の「らしさ」や指針を言語化する作業を、アマナのブランディングの知見がサポート。
- DNA=「らしさ」を探り出すプロセスそのものが、社員の意識改革と会社の未来につながる。
文具・事務用品メーカーのキングジム。これまでに発売された独創的な商品は、長年にわたって多くの人に愛され、ロングセラーとして国内外のオフィスを支えてきました。2027年に100周年を迎えるにあたり、キングジムではブランドの価値を再確認し、その価値をさらに高めるための施策に着手しています。
その一環として、ブランディングの指針であり、企業の共通認識ともいえるDNAを探るためのワークショップ「KING JIM DNA WORKSHOP」を実施。このワークショップをアマナがサポートしました。参加したメンバーの様子や、どのような気づきが得られたのかなどについて、井上彩子さん(株式会社キングジム/広報・IR部 PR課長)、井辺亜沙美さん(株式会社キングジム/広報・IR部 PR課)に聞きました。

100周年を前に直面した、キングジムのブランディング課題
「独創的な商品を開発し、新たな文化を創造して社会に貢献する」という経営理念のもと、さまざまなチャレンジをし続けてきたキングジム。現在は、2024年に発表された第11次中期経営計画に基づき、既存のビジネスを強化しつつ、①サービス事業への展開、②ライフスタイル分野の拡大、③海外事業の強化、という3つの骨太の方針に則って、次なるステージへと邁進しています。「時代の変化をチャンスと捉え、独創的なクリエイティブ集団であり続ける」という意識を保ちつつ、商品開発だけでなく全社がクリエイティブな集団として機能し、個人の強みをかけ合わせたより強い組織を作ること、社内外と共創して価値を創造できる企業になることを目指してきました。
そのような中で実施された今回のワークショップのテーマは、「キングジムの“らしさ”を策定する」です。2027年に100周年という節目を迎えるにあたり、あえてこのタイミングでブランディングに着目したのには、キングジムが抱えている課題がありました。
「100周年に向けて社内でプロジェクトチームが結成され、キングジムから発信するメッセージとして『ワクワクをもっと、オドロキをこれからも』が決定しました。そのうえでどんな施策を行っていくのか検討していく際に、このメッセージをどう具現化するのか、具体的にどのような施策に落とし込むのか、迷いが生じていると感じました。いつ誰にどのようなコンテンツで伝えていくかを考えた時に、拠り所となる指針が必要だと気づいたのです」(井上さん)
これまでに各ブランドの方針やガイドラインがきちんと構築されていなかったこともあり、危機感を抱いてもいたそうです。商品ごとに強い個性があり、それらが集まって形成されたキングジムに共通しているDNAとは何かを探る必然性を感じていました。

ワークショップのテーマである「キングジムの“らしさ”を策定する」にはどのようなプログラムがいいのでしょうか。DNA策定プロセスのためのパートナーとなったのが、アマナでした。キングジム社内でも「らしさ」をあぶり出すためのさまざまな施策を行っていたものの、それらが商品=プロダクト起点であり、その点を整理しないままワークショップを行っても、思いが「ものづくり」に集中してしまう懸念がありました。「らしさ」を策定するには、会社全体を見る視点が必要。そういった意識が生まれるワークショップにしたいと、アマナと共に内容を考えていきました。
「キングジムではブランディングなどを社内で主導して取り組んできた経験が少なく、日ごろ別々の部署で働く年齢や経験がさまざまなメンバーから短い時間で思いを引き出すのは、ブランディングに対する専門的な知見がないと難しいと感じていました。こうしたワークショップをさまざまな企業に対して実施されてきた実績がアマナさんにはありますし、その結果から導き出されるクリエイティブに対しても信頼感がありました」(井上さん)

ワークショップに参加するメンバーの選定にも、大きな意図がありました。会社の未来を見据えた時に、役職者だけで固めるのではなく、現場に近い社員にも参加してもらうことで、得られるものがあるのではと考えたのです。
「社長の木村(木村美代子)は日ごろから『周りを巻き込んで波を起こしてほしい』『会社のために何ができるのか、主体的に動いてほしい』といつも発言しています。『全員経営』という考えもあり、年齢も性別も会社での立場もさまざまなメンバーに声をかけました。
多様な意見を集めるという目的があると同時に、コーポレートブランディングにかかわるワークショップに選ばれたという誇りや自覚を持って、ここで得た経験や気づきを各部署に持ち帰り社内に広げてほしいという意図もありました。広い目線で考え、会社の未来を意識するきっかけになればいいなと思いました」(井辺さん)

「周年事業は、過去を振り返ってまとめたり、お祝いイベントを行ったりすること自体が目的ではなく、社会における企業の役割や、ステークホルダーとの関係を見直すきっかけになるタイミングです。キングジムが今持っている課題と強みを働くみんなで棚卸しをして会社全体で共有することが大切ではないかという思いもあって、経営層だけで方向性を決めるのではなく、さまざまな部署や役職の皆さんに参加してほしいと思いました」(井上さん)
周年というタイミングで、社員全員が主体的に会社のことをとらえることができて初めて、そうした事業が会社の成長につながるのではないか――キングジムのDNAとなる共通言語を探すため、30名の社員がワークショップに臨みました。
【DAY 1】「キングジムさん」の擬人化で、あるべき企業DNAを具現化
キングジムとアマナの協働で作られたプログラムに沿って、2日間のワークショップが開催。DAY 1では、以下4つのセッションを実施しました。
●SESSION 1:キングジムの現状と未来
キングジムの理想的な未来へ向けて、必要なこと、不要なことを書き出すワーク。
●SESSION 2:理想的な「キングジム」を擬人化。“キングジムさん”
キングジムが人だとしたら、どんな人物になるのか?を思い描く。
●SESSION 3:理想的な「キングジムさん」はどんな姿、振る舞いをする?
SESSION 2で思い描いた人物像をさらに具体化。何を身に付け、話し、どう行動するかを考える。
●SESSION 4:「理想のキングジム像」の特徴まとめ
SESSION 3で出したワードをまとめ、キャッチコピーを付ける。


6つのチームに分かれて、それぞれワークをします。各チームにはアマナのメンバーも加わり、コミュニケーションツールの使い方を説明したり、議論の方向性をアドバイスしたりと、さまざまなサポートを行いました。
「『キングジムを擬人化する』というワークが印象に残っています。話し合いを重ねていくうちに作り上げていく人物像が『キングジムらしさ』につながっていく実感があり、こんな切り口で会社の核を作るのか、とその手法に驚きました。チーム内でも会話が盛り上がりすぎたくらい、楽しかったですね」(井辺さん)
参加者からは、「普段の仕事では思いつかないことばかりで、頭の整理ができました」との感想も。多くのワードの中からDNAの策定につながる共通点を見つけたり、なぜその言葉が発せられたのかと考えるきっかけに触れたワークになりました。
【DAY 2】アウトプットと競合比較から「伝わる世界観」を定義する
DAY 2では、以下2つのセッションを実施しました。
●SESSION 1:消費者が接する「キングジム」を振り返る
今発信されているアウトプットを振り返る。消費者が接しているキングジムの姿の中から、今後も残したいものをピックアップ。
●SESSION 2:消費者に伝えたい「キングジム」を定義
どのようなキングジムでありたいかという未来の姿をとりまとめ、その世界観を言語化し、定義する。

DAY 1であぶり出した理想的なキングジムの姿を踏まえつつ、DAY 2ではその理想を伝えるためにどのような表現がふさわしいかを定義していきます。「キングジム」をイメージした言葉をマッピングし、色・形・質感に例えるとどのような表現になるのか、それにふさわしい発信物はどのようなものか、などを抽出。キングジムの競合他社を2社選び、同様に表現を探ることで世界観を具体化しました。
キングジムのシンボルやロゴ、広告クリエイティブ、扱っている商品などを取り上げたことで、現実を強く意識したというDAY 2のワーク。自由な発想で楽しく行ったDAY 1に比べ、難しく感じた部分もあったそうです。
「理想のキングジムを実現するために残したいものを選びましょうとなった時に、どうしても売れている商品を選んだり、昔からあるから残した方がいいよねという意見が上がったり。他のチームの発表を聞いても、ここで保守的な面が出たなと感じました。今ある商品をもう一度見直そうという動きがあってもいいし、売れているかどうかは関係なく、キングジムが出してきた商品の共通する特徴は何かを言語化するチャレンジをずっとしてきたので、このワークを踏まえてデザインフィロソフィーのようなものを構築できたらいいなと思いました。
それと、競合他社を選ぶ際に、まず『競合』とはどこを設定するのだろうと悩みました。キングジムは取り扱っている商品の幅が広く、文具メーカーと見るのか、電子機器メーカーとして見るのか、ライフスタイル用品メーカーとして見るのか、迷ってしまって。キングジムはどこを目指すかが議論になり、そこでうまく言語化できないことがあると感じました」(井上さん)
「そうですね、競合として選んだ他社はイメージをすぐに具現化することができて、それはその企業のブランディングが成功しているからこそ世の中の皆さんがイメージする像と一致しているんだなと思いました。一方でキングジムは商品先行ということもあり、どれを中心に考えるかで軸が変わってしまって。前のセッションで理想像をもっと明確化しておけばよかったと思いつつ、具現化が難しいこと自体が課題なのだなとあらためて実感しました」(井辺さん)




「らしさ」の言語化が、社員の意識改革とキングジムの未来をつなぐ
2日間のワークショップをやり切り、「キングジムについて深く考える機会がなかったので、今の状態とこれからなりたい姿をあらためて考えることができました」「キングジムについてしっかり考えた2日間でした」といった感想を口にしていた社員の皆さん。新たな発見や今までにない気づきを得ることができたと感じています。
「キングジムには熱量の高いファンが多く、推し活のような愛され方をしているなと以前から感じていました。それは、かゆいところに手が届く独創的な商品が多いからだと思っていましたが、ワークショップでも『残すべきもの』として『商品開発のDNA』が満場一致で上がっていたので、それがキングジムの核になるのではと思っています。
メンバーの中で意見が分かれた部分があったのも、新鮮でした。キングジムの擬人化の際に、老舗のメーカーという真面目な印象を持っている人と、ワクワク感がある商品を出しているというイメージを持っている人がいて、真面目さとおもしろさという相反するものを持つのがキングジムで、その2つをうまくバランスを取りながら100年持続してきた会社なのだと私の中で整理ができました」(井辺さん)
「逆に、商品ではないところにも『らしさ』があると感じました。今回のワークショップを通して、誰かのニッチな悩みに対応し続けるこだわりや探究心に気づいたり、今まで言語化できなかったことでもチームの発表を聞いて『いいな』と思えるワードに出会えたりしたので、商品という強みはありつつそうではないところに意識を向けること、そこに『らしさ』が宿っていると感じることができました」(井上さん)

ブランディングや周年事業における施策は、収益に直結するなどの効果が実感しづらいものの、長い目で見ると企業の成長にとって必要不可欠なものでもあります。軸となるものをどこに据えるか、そのための合意形成をどのように行い、社員をどこまで巻き込むか、さまざまなハードルが存在します。こうしたハードルに対してアマナが持つビジュアルコミュニケーションの知見が機能し、キングジムの意識改革をサポートする役割を担うことができました。
「経営を推進する上層部だけでなく、目の前の業務に日々、一生懸命取り組んでいる社員の視点を未来に向けていくのは、なかなか難しいことだと感じていました。どうしたら主体的に参加していただくことができるか、そのためには最終的なゴールを提示したうえでなぜこうした活動をしているかの過程を丁寧に説明し共有する必要があると思いました。アマナさんには、社内のムードの醸成から伴走していただき、実務運用についても使いやすいツールや資料を用意してくださって、安心感がありました」(井上さん)

「らしさ」を策定するワークショップを経て、キングジムは次なる100年に向けてどのような発信を行い、どのような変化を遂げていくのでしょうか。その動きはまだ始まったばかりだと井辺さんは語ります。
「今回のワークショップを集約して言語化されたものを参考にしつつ、企画や施策を進めます。今は社内でもアイデアベースなので、その判断軸としてワークショップで策定された『らしさ』がポイントになるでしょう。
100周年を単なるお祝いムードで終わらせず、今後もキングジムらしくあり続けるために何をするかという宣言の場や意思表示をする機会にしたいので、感謝の気持ちを込めてお客様に還元できるものを軸に考えていきたいと思います」(井辺さん)
<スタッフクレジット>(クライアント以外すべてアマナ)
クライアント:株式会社キングジム
コミュニケーションプランナー:神田美咲
プロデューサー:吉岡勇、輪湖瑞穂、高野映里、武田瑞菜
ディレクター:有村公一、土方由美、濱口直輝、高橋真哉
サポートスタッフ:尾崎友香、重田果歩
取材・文:大橋智子
取材撮影(ポートレート):INFOTO
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