生成AI時代のブランド一貫性とは?OFFF Barcelona 2026に学ぶ「動的ブランディング」の設計手法

毎年、バルセロナのDisseny Hub Barcelonaで開催されている世界最大級のデジタルデザイン・フェスティバル「OFFF Barcelona」は、今年で26回目を迎えました。常に最先端のデジタル表現を追求してきたこのイベントが、今回、提示したのは、モーショングラフィックス、生成AI、インタラクティブアートの最前線です。しかし、それは単なる表現トレンドの更新ではなく、「ブランディングが、もはや固定的なビジュアルに基づくものではなく、変化し続ける存在へと変容した」という、大前提そのものの転換でした。
ここでは、OFFF 2026で提示された表現の潮流を「ブランディング設計の新ルール」として読み解き、これからの時代に、ブランドはいかにして一貫性を保つべきかを考えます。
ブランドは「培養」される時代へ
OFFF BarcelonaのOFFFとは、元々、「Online Flash Film Festival」の略でした。Flashとは、2000年前後にインタラクティブコンテンツやWebアニメーション制作の中心技術だったMacromedia Flash(後のAdobe Flash)を指します。そのFlashは今や過去の遺物となりましたが、OFFF Barcelona自体は名称を変更することなく、現代のクリエイティブ関連のものとしては世界最大級の国際イベントへと発展しました。
まず、今年のOFFF Barcelonaを象徴していたのは、参加者のIDタグのデザインにも応用されたフェスティバル自身のビジュアルアイデンティティです。

OFFF Barcelona 2026 'Cultured' campaign by Uncommon
Culturedプロジェクトによって「培養」されたOFFF Barcelonaのロゴイメージ
「Cultured(「培養された」と「文化がある」のダブルミーニング)」と名付けられたこのビジュアルアイデンティティは、イギリスのUncommon Creative Studioが手がけました。彼らは、事前にロンドンとニューヨークのスタジオにクリエイターたちを招いて交流イベントを開き、グラスや皿、エレベーターの階床ボタンなどの表面に残った指紋や皮膚片、服の繊維、バクテリアなどを収集したのです。それらを元に、アーティストのMould Queen(カビの女王)ことDasha Plesenがカビを培養し、その形状や質感を、OFFF Barcelonaで使用されるフォントやビジュアルアイデンティティ全体に応用しました。この過程は、こちらの動画で確認することができます。
Uncommon Creative Studio/OFFF '26 Reveal Film
この「Cultured」の根底にあるのは、ブランドアイデンティティを固定的なデザインで規定するのではなく、「生成の条件」を設計し、そこから育つ無数のバリエーションすべてをアイデンティティとして扱う、つまり、「ブランドが培養される」という考え方です。イギリスの国際的なクリエイティブメディアであるPeople of Printは「(Culturedプロジェクトは)クリエイティブを、デザインされるものではなく育てられるものとして位置づけた」と評し、新たなブランディングの在り方が示唆されました。これは、イベントの公式メッセージである「クリエイティビティは、生きた協働的なコミュニティから集められた参照・アイデア・視点を、執拗に収集しキュレーションすることで形づくられる」にも呼応するものです。
それでは、ブランドが培養されるものだとすれば、企業のブランディング設計はどう変わるべきなのでしょうか?ここからは、OFFF Barcelonaで示されたその方向性を、3つの潮流に整理し、紹介していきます。
OFFF Barcelona 2026で顕在化した3つの表現トレンド
1. モーショングラフィックスが主役になった
今年のOFFF Barcelonaにおける最大の公開プログラムは、2年目を迎えたファサードのプロジェクションマッピング企画「The Screen」でした。イベント主宰者とベルギーの3DスタジオFrameboyが共同で制作し、3夜連続でメイン会場のDisseny Hub Barcelonaの建物外壁を使って上映されたこのモーショングラフィックスアートは、イベント参加者以外でも無料で観覧できました。
まず、Laundry Studiosによって制作された約9分のメインタイトル映像が、変化し続けるタイポグラフィと色彩によって登壇者たちを讃え、その後に、735もの国際的な応募作品から選出された280作品が続きました。この企画によってOFFF Barcelonaは、モーショングラフィックスがもはや特別な表現手段ではなく、視覚表現の主流になりつつあることを印象づけたといえるでしょう。
2. 生成AIはツールを超えて制作プロセスそのものに
そのThe Screenに映像出展したバルセロナのOnion Labによる「Ciutat Contínua」は、生成AIの支援によってバルセロナの建築的アイデンティティを横断・再解釈する連続的なシーケンスを生成した作品でした。また、新人発掘プログラムのNXTには、リサーチ、アイデア出し、アニメーション、プレゼンテーションまでのほぼ全工程に生成AIを用いた実験的プロジェクト「90% AI」も含まれていました。
先のPeople of Printが「AIは、ほぼすべての話題に忍び込んでいた」と記したように、生成AIは特殊なトピックではなく、制作プロセスの重要な前提になりつつあると考えてよいでしょう。
3. 有機的・インタラクティブな表現の広がり
同じくThe Screenに出展したSomniaLabの「Cartography of Touch」は、ダンサーたちの手の動きが建築のファサードに触れて彫刻するように見える錯視的なパフォーマンス映像によって、身体と建築の相互作用を描きました。実際の講演プログラムにも、日本のチームラボ、アメリカのVolvox Labs、カナダのMoment Factory、同じくカナダのSilent Partners Studioといった体験型・没入型のクリエイティブスタジオが登壇し、「静止した完成品」ではなく「観客との関係の中で変化し続ける表現」が主流になってきたことを示したといえます。

SomniaLab「Cartography of Touch」は、ダンサーと会場ビルのファサードの動きを連動させ、身体と建築の相互作用を描きだした(SomniaLabの公式サイトより)
これらの3つの表現トレンドに共通するのは、アウトプットの完成形が1つに定まらないという点です。そして、それが、これからの企業ブランディングにも大きな影響を与えていくものと予想されます。

OFFF Barcelona 2026では、このような3つの表現トレンドが顕在化した。

「制御」の対象が変わったことによる静的ガイドラインの限界
OFFF Barcelonaで提示された潮流を踏まえると、従来の静的なブランドガイドラインに限界が訪れつつあることが読み取れます。そうしたガイドラインは、ロゴのサイズや縦横比、カラー、余白、書体などの「静止した状態」を規定するものでした。しかし、表現の主戦場がモーショングラフィックス、生成AI、インタラクションへ移っていくと、静的なルールブックは必然的に制御すべき対象そのものを見失っていきます。もしも、ロゴの動き方がバラバラだったり、AIが生成するビジュアルの方向性が毎回異なっていれば、受け手の中にブランドイメージが蓄積されにくくなることは、容易に想像がつくでしょう。
会期中の話題の中心も、「生成AIによって誰もが同じ参照元から作れる時代に、差を生むのは何か?」という問いでした。つまり、無数のバリエーションが瞬時に作れる時代のブランドの競争力は、どこにあるのかということです。こうした疑問に対して、Uncommon Creative Studioの共同創業者であるNils Leonardは「誰かが君のアイデアが盗むのではない。(そのアイデアを実際のクリエイティブに落とし込む)君(の作業)が遅すぎただけだ」と挑発し、「最終的な差を生むのは(アイデア自体よりも)テイストや判断力」であり「何を許し、何を許さないかという判断の一貫性がブランドの競争力になる」という見解が示されました。
それは、「ブランドが静的なルールによって規定される時代が終わり、『どこまで変化してよいか』を定めた動的なルール体系によって定義されていく」といいかえることもできるでしょう。そこで必要となるものが、動的なブランディング設計です。
動的ブランディング設計の中核となる3つの構成要素
そのような変化を前提とした動的ブランディングは、どのように設計されるのでしょうか? 改めてOFFF Barcelonaでの事例を踏まえて整理すると、見えてくるのは次の3つの要素です。
第一に「生成ルール」: これは、AIや自動生成の仕組みに与える、変化の許容範囲です。具体的には、ブランドのシンボルや哲学、禁止事項などの不変の核と、色調やモチーフの振れ幅、参照データの範囲などの可変領域を明確に分け、プロンプトや参照データセットとして実装します。Uncommon Creative Studioの「Cultured」が示したように、生成条件さえ正しく設計されていれば、アウトプットが毎回異なったとしても、ブランド自体が揺らぐことはないといえるでしょう。
第二に「モーション言語」:これは、ブランド固有の「動き方」の定義です。イージングの質感、速度、リズム、トランジションの作法が、ロゴやカラーと同じくブランドのパーソナリティを伝える重要な要素となります。The Screenのメインタイトルが、変化し続けるタイポグラフィの中でも一貫した世界観を保つことができた理由は、動きのトーン&マナーがしっかり規定されていたからなのです。
第三に「インタラクション」: これは、ユーザーの操作や環境に対して、ブランドがどう応答するかを定めたルールです。SomniaLabが身体と建築の「触れ方」を設計したように、タップへの反応速度や気配の返し方は、ブランド体験の記憶を左右することになります。
これらの3つの要素に共通する視点は、「一貫性」という言葉が持つ意味の更新にあたるでしょう。つまり、「常に同じ見た目であること(同一性)」から、「どんなに変化しても同じ判断基準から生まれているとわかること(変化の再現性)」への移行です。生成AIとモーション表現の時代においては、このような新たな一貫性が重要になると考えられます。

動的ブランディング設計では、これらの3つの構成要素が重要となる。
タッチポイントへの応用
そうした新たな一貫性を、日々のブランド運用に応用するとどうなるでしょうか?
たとえば、SNSでは、投稿ごとにビジュアルを変えつつも、生成ルールをテンプレートとプロンプトの形で運用に組み込むことで「らしさ」が保たれます。映像広告では、媒体や尺が異なってもモーション言語を共通化することで、15秒のTVCMと長尺のブランドムービーから同じパーソナリティを感じられるでしょう。UIでは、ボタンの反応やローディングといった個々の細かなインタラクションに共通のモーション言語を実装することで、日常的な操作の中でブランドを体験させることが可能になります。
このような観点から、これからのブランド戦略を考えると、まず、ブランディングのガイドラインが「動き」と「変化の範囲」を定義しているかどうかをチェックする必要が出てくるでしょう。
生成AI時代のガバナンスと失敗パターン
一方で、OFFF Barcelonaでは動的表現の落とし穴も語られました。失敗の典型は、大きくわけて2つ存在しています。
1つ目は「変化しすぎて一貫性が失われるケース」です。具体的には、生成AIの出力を制御するためのプロンプト設計が不十分なために、ブランドイメージが曖昧なものとなってしまいます。AIブランドガバナンスの欠如が、出力結果にそのまま表れてしまうのです。
2つ目は「ノイズ的な表現に意味が伴わないケース」です。これは、派手なモーションや生成されたエフェクトがブランドの思想や哲学につながらないまま、単なる面白さやインパクトとして消費されるパターンといえます。

OFFF Barcelonaでは、動的表現の落とし穴として、代表的な失敗パターンが2つ指摘された。
デザインスタジオのForealの講演では、生成AIの話題で持ちきりの会場で、あえて「スケッチ」という原始的な手法に触れながら、「ツールがいくら進化しても、(クリエイターの)テイストや直感、粘り強さを置き換えることはできない」と結論づけました。つまり、生成AIなどを活用して表現の自由度を最大化しながらも、出力結果の意味づけや判断は人間が行うことが大切なのです。動的ブランディングの成否は、そのバランスがしっかり設計できているかどうかにかかっている、と考えてよいでしょう。
動的ブランディングを設計・運用するパートナー
動的ブランディングの設計や運用には、ブランド戦略はもちろん、モーションやビジュアルの制作力、そして生成AIの実装知見という異なる能力を統合して適用することが必要です。しかし、多くの企業にとって、それを自社単独で担うのは容易ではありません。
アマナは、約半世紀にわたって企業のビジュアルコミュニケーションを支援してきた知見のうえに、生成AIをブランド運用に組み込むソリューション「AI Creative Architecture」を展開しています。その中核となる「らしさAI」は、光、色、構図などを含むブランド表現を構造化することによって、ブランドらしさを表現するパラメータや生成ルールを設計可能にした技術です。さらに、生成物がブランドの基準を満たしているかを客観的に評価・選別するスコアリングの仕組みも導入しており、これは、ここで述べてきた動的な生成ルール設計やブランドガバナンスの考え方とも重なる仕組みです。
さらに、AI専門組織である「A³|amana AI Architects」は、アートディレクターやフォトグラファー、CGアーティストなどのクリエイターと、AI技術やデータマネジメントに精通した専門家によって構成され、ブランド固有の美意識をAIに翻訳する基盤設計から、グラフィックやムービーの制作、PoC、ガイドライン整備、リスクマネジメントまでを一気通貫で支援する体制を整えています。
これからの動的なブランディングを見据え、自らも積極的に挑戦していこうとする企業にとって、変化し続けるブランド体験を共に設計し、運用するパートナーでありたい。アマナは、そう考えて、人の感性と生成AIのスピードや再現性を組み合わせながら、「ブランドらしさ」を守りつつ表現の可能性を拡張する、新しいクリエイティブ基盤の構築を支援しています。
文・図版:大谷和利
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