レシピ動画のDELISH KITCHENが“ユーザー目線”を徹底する理由

料理を作る人に寄り添う『DELISH KITCHEN』の原点とは
——強い競合もいるレシピ動画コンテンツの中で、『DELISH KITCHEN』はどのように差別化を図っているのでしょう? 菅原千遥さん(以下・菅原。敬称略):いくつかありますが、特徴的なのは「チーズとろとろ」「クリームふわふわ~」といった、いかにもおいしそうなシズル感を演出し過ぎないようにしています。 ——おいしそうに見せるシズル表現は、料理動画に見せるには不可欠に思えますが……。 菅原:シズル感はある程度必要ですが、『DELISH KITCHEN』のコンセプトは「誰でも簡単においしく作れる」。つまり、あくまで料理を作るためのツールとして使ってほしいと思っています。
<PROFILE>菅原 千遥|Chiharu Sugawara 2012年慶應義塾大学を卒業後、グリー株式会社に入社。 事業責任者として女性向けネイティブゲームに従事し、その経験を活かし戦略部門にて子会社や投資先会社の事業管理基盤構築を推進。その後、新規事業の立ち上げを主導。2015年9月、株式会社エブリーを共同創業。2018年に執行役員に就任。
271のルールで作られる、徹底的なユーザー目線
——「作ってもらう動画」にするため、他にはどんな工夫をしていますか? 菅原:真俯瞰から撮るアングルは最たるもので、一番作業が見えやすいんです。あと、早送りを使わないことも工夫のひとつ。代わりに、千切りならば「最初の1、2回の包丁さばき」を見せたうえで、間はカットして「最後の1回の包丁さばき」を見せる。すると「こういう切り方をここまでする」という一連の動作が見え、早送りせずとも短尺で済みます。食材を切ったり、具材を混ぜたりして、料理が変化していくタイミングが伝わるように意識しているんです。 また、実は『DELISH KITCHEN』の動画制作上のルールは日々増えていて、切り方、焼き方、混ぜ方や説明の入れ方など、今や271個もあります。一貫しているのは調理の流れを見て違和感を覚えさせないこと。何をしたのかわからない状況を作らないよう気をつけています。 ——ユーザーの属性に特徴はありますか? 菅原:9割ほどが女性で、年齢層は20~40代が多いです。既婚が7割、お子さんがいる方が6割ほどですね。うれしいのは「毎日料理する」と答えている方が8割もいること。なんとなく観ているのではなく、毎日の献立づくりや実際の調理の参考にしていただけている証拠かなと。 ——FacebookなどのSNSとスマホアプリ、二通りのスタイルで配信していますが、両者で人気動画に差はありますか? 菅原:ありますね。最初にお話ししたシズルを演出しすぎないことと矛盾するようですが、SNSではやっぱり「とろーり」「サクサク」など音が聞こえてくるようなシズル感ある料理が人気なんです。 一方アプリでは、SNSではほぼ観られない「油揚げとほうれん草の和え物」のような、派手ではないけれど実用的なレシピが人気。「副菜」というキーワードもすごく検索されます(笑)。毎日の料理に役立ててもらっているからでしょうね。
(左)Instagramで人気な“とろ~り感”伝わるチーズを使った動画、(右)アプリで人気のある副菜動画
カメラマンは0人。月数百本のレシピを撮るための体制と仕組み
——動画は月にどれくらい制作されますか? 菅原:月によって変動しますが、多いときは1000本ほど作っています。すでに掲載しているストック数は2万9000本(※2020年1月末時点)で、すべて社内のスタジオで撮影しています。カメラマンはおらず、キッチンスタジオの調理ブースひとつひとつにカメラを固定。調理を担当するフードスタイリストが自ら録画ボタンを押すんです。
フードスタイリストは、モニターを見ながらグリッドに合わせて食材などの位置を調整。一人で撮影と調理ができるような仕組みに。
調理スペースとは別に完成カットを撮影するスペースもある。現在フードスタイリストは30名ほど。彼女たちが撮影した動画データは、社内の編集スタッフに送られ、271のルールに従ってチェックし、レシピ動画が完成する。
サイネージ導入で売り上げ30%増。店頭施策の強みとは?
——食品メーカーや調理家電メーカーと組んだタイアップ広告としてのレシピ動画も反応がいいそうですね。 菅原:はい。クライアントのブランドムービーを撮るのではなく、あくまで『DELISH KITCHEN』の世界観の中にタイアップ商品が組み込まれるので、タイアップであってもユーザーの方々に違和感なく観てもらうことができます。加えて、レシピ動画への視聴反応や、検索ワードといったデータから、毎日のように料理を作っているユーザーの方々のニーズを分析できることも、企業の方に評価されている点です。 ——そのデータは具体的にどのように活用されるのでしょう? 菅原:タイアップ企画では、まずクライアントの商品の特性や、どんな層に発信したいのかをヒアリングし、レシピを提案するのですが、このときの根拠や仕掛けとして『DELISH KITCHEN』に蓄積されたデータを活用します。 たとえば正月明けの季節なら「お餅」のレシピがよく観られることがわかっているので、「クライアントの食材×お餅」のレシピを作ると、多くの方に試していただけます。夏場であれば、コンロを使わず電子レンジで作れるレシピの需要が高まるとか、「チーズ」や「卵」は汎用性が高くて常に人気ですよ、とか。 単に商品だけを「認知」してもらうのではなく、レシピ動画を通して、使い方まで「理解」してもらう。結果として購買意欲につながりやすいことも支持されている理由です。
——最近はスーパーなどの小売店の店頭にデジタルサイネージを置き、そこで動画コンテンツを流す施策も積極的に行われていますね。
菅原:小売店、あるいはメーカーとのコラボレーションで、店頭のデジタルサイネージにレシピ動画を流し、販促効果を狙っています。着想のきっかけになったのは、「新日本スーパーマーケット協会」が2014年に実施したユーザー調査です。来店前に、何を作り、何を買うか決めている方は全体の3割ほどで、5割の方が「店頭に来てから何を買うか決めている」ことを知りました。
つまり店頭でレシピ提案をすることは、多くの方々の手助けができるということ。私たちのミッションである「献立を考える煩わしさをなくす」ことにつながります。スーパーやメーカーのマーケティングコストも最適化できると考えました。
店頭施策の様子。
まとめ
「料理を作る人」に寄り添い、徹底的なユーザー目線でコンテンツを制作・配信するDELISH KITCHEN。本当に参考になる動画にするためには、ユーザーのインサイトを汲み取ったうえであらゆる視点でプロのチェックを入れ、手間をかけて1つ1つの動画を制作する必要がある。一長一短には実現できない制作フローがあるからこそ、多くの「料理を作る人」の日常を手助けでき、積み重ねたデータが企業との取り組みでの大きな強みとなっているのですね。
インタビュー・テキスト:箱田高樹 撮影:劉怡嘉(Kelly Liu/acube)デザイン:下出聖子(amana design studios)








